色合いに、命の気配
また赤か白か、わからない。しかもエチケットのはがし方が、次第に上手になっているとこが、小憎らしい。
3回目になってきて、この赤か白かロゼかわからないという状況が、たまらなく好きになってきた。このままいくと、家にあるワインのエチケットを、全部はがしそうである。
注ぐまで、まったくもってわからないというのは、ミステリーの楽しみと似ている。ブラインドテイスティングだって、事前に赤か白かぐらいはわかっているだろう。しかも袋をかぶせた瓶から注ぐのと違う、この裸感が、またいい。
エチケットを介さず、直接瓶に触れた手が、中のワインを探ろうとしているのがわかる。ゆっくり注ぐと何色かの液体が、流れ出る。
その瞬間のときめきは、ワインをより神秘にし、ワインに対する感謝を深めていく。仲間内で、ワインパーティーなどする時には、このやり方で楽しめば、いっそう盛り上がることは間違いない。
さて今回のワインだが、少し冷やしておいた。経験上、こうしておけば、飲んだ時の修正が容易いからである。
肴は相変わらず家にあるもので、パルミジャーノにグリュイエール、ドライフルーツをちりばめたクリームチーズ、パン・ド・カンパーニュ。塩カビサラミになぜか鯨ベーコン、鶏手羽と野菜のポトフである。まあこれだけあれば、どれかが合うだろう。
さて注ぐか。とくとく。赤である。色が濃い。
ルビーレッド、日本の色でいえば唐紅色。濃紅色の液体が、グラスの中で、ひっそりと輝いている。
「飲んでごらん」。色合いに、命の気配があって、そう誘ってくる。飲みましょう。飲ませていただきましょう。
ごくん。ブラックチェリーやプルーンのような香りが立ち上がる赤い液体は、すうっと舌の上を過ぎ、喉を鳴らした。
なにかこう、すいすい飲んでしまう感じではなく、噛み締め、喉を鳴らして飲む方が似合うぞと言っている。
甘みがふくよかだが、自然な甘みで、干しブドウのような、ブドウの甘みを凝縮し、少し枯れさせたような甘味である。その甘味の裏側に隠れた苦味が、噛め、ゆっくり飲み込めと言っているのかもしれない。