アームチェア〝ワイン〟トラベラー Vol.8

俺たちは人間さ。すべてを飲み込んで、酔おうじゃないか!

1057-1

鶏肉ってうまいねと、いいたくなる

初のスパークリングである。

いや、前回缶ワインでもスパークリングがあったので、正確には二度目であるが、ボト
ルでは初である。

箱から取り出すと、ずっしりと重く、瓶口のワイヤーキャップ〝ミュズレ〟が、「私を冷やして」と、囁いている。

しまった。この完全ブラインドも、8回目のため、気が緩んでいた。常温で放置していたのである。

慌ててワインクーラーとシャンパングラスを用意するが、その前に常温状態も楽しもうと、開けてみた。いや単に、待ちきれなかっただけである。 

エチケットが剥がされた、黒々としたボトルは、無骨である。ワインの華やかさは微塵もなく、粗野でさえある。

しかしそんな姿から、きらめく液体が顔を出す。そのギャップがたまらない。

袋をかぶせたブラインドは、いわば洋服を脱がせる喜びだが、これは、本心を隠していた彼女が、自分だけには本心見せてくれた、コーフンがある。だから、一刻でも早く、飲みたくなってしまう。

過度の期待はしないが、淡い憧れを抱いて飲む。このブラインドには、そんな楽しみがある。

肴の用意も、万全に整えた。サーモン、鶏のもも肉、牛肉、なぜかお新香、ブリードモー。ワインを開けてから調理は考える。だが牛肉は、今晩の出番はないだろう。

冷えていないワインは、勢いよく泡を立てた。無数小さな泡が立ち上り、灯りを反射させて輝いている。

すうっと飲み込むと、後口にブドウを噛み締めた味がする。ブドウの甘酸っぱさだけではない、皮のほろ苦さが微かに漂うのが、微笑ましい。

これはまずサーモンだろうと、たっぷりのバターで、ムニエルにしてみた。合う。だがタルタルを浸けると、より合う感じがする。なかなか、包容力があるらしい。

そこで、もも肉も焼いてみる。鶏皮の脂だけでじっくり焼き、塩をしてレモンを添える。強めの塩が肉の滋味を生かし、そこでワインを飲めば、鶏肉ってうまいねと、いいたくなる。

次はニンニク風味で焼いてみたが、さらに合うではないか。どうやらこのワイン、個性が強い味わいを受け止める、許容力があるらしい。

優美な泡ではないが、チリチリと舌の味蕾を刺激する泡が、味覚をたくましくするような感覚があって、実に楽しくなってくるのである。

この記事を書いた人

マッキー牧元
マッキー牧元
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。まさに、「食べるグルメマップ」。多くのアーティストの宣伝・制作の仕事のかたわら、1994年には、昭文社刊「山本益博の東京食べる地図」取材執筆、1995年には「味の手帖」に連載を開始するなど、食に関する様々な執筆活動を行う。現在も、「味の手帖」、「食楽」、「銀座百店」、「東京カレンダー」など、多数の雑誌やWebに連載中。日本テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などに出演。

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