鶏肉ってうまいねと、いいたくなる
初のスパークリングである。
いや、前回缶ワインでもスパークリングがあったので、正確には二度目であるが、ボト
ルでは初である。
箱から取り出すと、ずっしりと重く、瓶口のワイヤーキャップ〝ミュズレ〟が、「私を冷やして」と、囁いている。
しまった。この完全ブラインドも、8回目のため、気が緩んでいた。常温で放置していたのである。
慌ててワインクーラーとシャンパングラスを用意するが、その前に常温状態も楽しもうと、開けてみた。いや単に、待ちきれなかっただけである。
エチケットが剥がされた、黒々としたボトルは、無骨である。ワインの華やかさは微塵もなく、粗野でさえある。
しかしそんな姿から、きらめく液体が顔を出す。そのギャップがたまらない。
袋をかぶせたブラインドは、いわば洋服を脱がせる喜びだが、これは、本心を隠していた彼女が、自分だけには本心見せてくれた、コーフンがある。だから、一刻でも早く、飲みたくなってしまう。
過度の期待はしないが、淡い憧れを抱いて飲む。このブラインドには、そんな楽しみがある。
肴の用意も、万全に整えた。サーモン、鶏のもも肉、牛肉、なぜかお新香、ブリードモー。ワインを開けてから調理は考える。だが牛肉は、今晩の出番はないだろう。
冷えていないワインは、勢いよく泡を立てた。無数小さな泡が立ち上り、灯りを反射させて輝いている。
すうっと飲み込むと、後口にブドウを噛み締めた味がする。ブドウの甘酸っぱさだけではない、皮のほろ苦さが微かに漂うのが、微笑ましい。
これはまずサーモンだろうと、たっぷりのバターで、ムニエルにしてみた。合う。だがタルタルを浸けると、より合う感じがする。なかなか、包容力があるらしい。
そこで、もも肉も焼いてみる。鶏皮の脂だけでじっくり焼き、塩をしてレモンを添える。強めの塩が肉の滋味を生かし、そこでワインを飲めば、鶏肉ってうまいねと、いいたくなる。
次はニンニク風味で焼いてみたが、さらに合うではないか。どうやらこのワイン、個性が強い味わいを受け止める、許容力があるらしい。
優美な泡ではないが、チリチリと舌の味蕾を刺激する泡が、味覚をたくましくするような感覚があって、実に楽しくなってくるのである。