ヴァシュランモンドールでエロくなる
赤である。二度目の赤である。
ブルゴーニュタイプより、スクッと肩がなで肩になったスマートな瓶から、赤紫色の液体が流れ出た。
冷やしておかなくてよかった。いや、暖房をつけてない室内に置いてあったので、同じことか。ワイングラスに注いだワインは、少しひんやりとして、香りも味わいもまだ眠っているようだった。
だが、すうっと滑らかに舌に入り込んできた液体が、喉に落ちかかる刹那、ヒリっと赤ワインの凛々しさが顔を出す。ほのかな苦味をともなったぶどうの豊かさが、膨らんで消える。
とりあえず用意した熟成パルミジャーノと合わせてみた。ううむ、なにも変わらない。動きがない。
チーズはチーズ、ワインはワインと別の道を歩いている。では今度はヴァシュランモンドールではどうだろう。
チーズを口に含み、そっとワインを飲んで、噛んでみる。おお、エロくなったではないか。
しかも色気を帯びたのはチーズではない、ワインの方である。風船が破裂するように、隠し持っていた艶が口の中で破裂した。
面白い。パルミジャーノではよそよそしかったワインが、こちらにしなだれ、媚を売っているではありませんか。
こりゃあ料理の作りがいがあると、ワイン片手にキッチンに立つ。作るのは鶏モモ肉のソテーである。
皮に穴あけ、塩をふってフライパンで焼く。油は引かずに皮面から弱い中火で焼いていく。
じわじわ滲み出る脂を拭い取りながら、皮に茶色の焦げ色がつくまで、じっくり我慢して焼いていく。片手に持つワインも、じっと出来上がりを期待しているに違いない。
皮面が焼けたら裏返し、1分ほど焼いてから休ませた。さあ味つけはどうしよう。
一計を案じ、余分な脂を捨て、少量の水と手元のワインを入れ、こびりついたうま味を剥がしながら、煮詰める。
そこにチキンブイヨンの素を少量入れ、最後に発酵バターを入れ、黒胡椒を多めに挽き入れる。鶏を切り、皿に盛って塩と粒黒胡椒、バジル風味のオリーブ脂を添えてみた。
鶏を一口、ワインを一口。ふふ、狙い通りだね。ワインが鶏皮の焦げた香りを凛々しくさせる。これがなんとも胃袋を掴むのだな。
次にオリーブオイルをつけた鶏とワインを合わせると、今度はバジルの爽やかな香りが広がった。こいつは、隠し持った香りを引き出してやる、健気な奴らしい。
次は即席赤ソースをからめてみる。合う。当然合う。ソースと鶏肉とワインが同化していくような感覚がある。