人生初の缶ワイン
缶である。よりによって缶ワインである。
人生初の缶ワインを前にしてうろたえた。しかも、缶なので、銘柄を隠すために、エチケットを剥がす訳にもいかなかったのであろう。黒のガムテープが何重にも巻かれている。
黒々とした250mℓの缶が目の前に何本も置かれている姿を想像してほしい。もはや危険物を前にした、テロリストの気分である。
よく見ると、ガムテープの端から少しずつ缶の色が見えている。白が2種類、桃色がかった白、金、緑、赤のようである。
おそらく、白はソーヴィニヨンとシャルドネ、桃色がかった白はロゼ。緑はリースリングかヴィーニョ・ヴェルデか。そして赤は、ピノ・ノワールに違いないと読んだ。はは、この勝負勝ったぞ。
缶の裏側を見れば、編集部の方で番号が振ってあり、6種類あるらしい。
6種類なら、料理を用意するのは難しいので、チーズとパンで迎え撃つことにした。ミモレット、ゴーダチーズ、ブルー・ド・セヴラック、パルミジャーノ・レッジャーノ、焼いたプロヴォーネの布陣である。
順番は1番からいってみよう。どうもガムテープ缶は、怪しいものを飲んでいるようで胸が高まるなあ。
白がわずかに見えつつある缶のプルトップを開けて、ワイングラスに注ぐ。
おお、なんとロゼである。しかも微発泡で、白い頬に恥じらいをにじませた16歳のパリジェンヌのように、鮮やかなロゼ色が輝いている。
飲めば安価なロゼにありがちな、ただれた甘みがない。甘酸っぱい香りを漂わせながら、きりりと味が締まっている。
恐るべし缶ワインである。心のどこかで「どうせ缶でしょ」と軽視していた気持ちが吹っ飛んでいく。
これで魚のテリーヌや、鶏胸肉のサラダ、軽い味付けの中国料理なんていいだろうなあ。いや、駅弁にも合いそうだから、旅のお供にしてやろう。
こいつにはゴーダがいいけど、本当はシェーブルなんかを合わせたい。
2番は白色。この缶も与層を裏切って、微発泡の赤である。面白い。缶隠しブラインドはパーティーでやったら、間違いなく盛り上がる。
カシスのような甘い香りが、舌の上でチリチリと弾ける泡から漂う。果実味は淡いけど、爽やかである。
だから気軽にハンバーガーや、宅配ピザ、フライドチキンなどと合わせるのがいいのかな。タータンチェックのシャツを着た快活なアメリカの女の子。15歳と見た。