自然が生んだ神秘
今回送られてきたワインは、なで肩のボトルで、コルクではなく、アルミキャップで締められている。しかしなにより変わっているのは、その色合いであった。
ロゼ色と言えば簡単だが、その一言ではかたづけられない、複雑な色のニュアンスがある。
瓶の首にオリが出た半透明の液体は、ロゼ色の中に深紅色や赤紫色が刺しこんで混ざり、その色合いが、このワインの神秘を深めている。
これは自然が生んだ神秘なのか。生産者は、この色を生み出したかったのではなく、いいブドウを育ててワインを作ったら、この色になっちゃいました。そう言っているような、ブドウそのままでなにも手を加えられていないような、色合いである。
金のアルミキャップで素っ気なく、田舎で少量作りましたよという顔をしていながら、色に神秘がある。面白いなあ。
それよりこれは赤なのか? ロゼなのか? 瓶内発酵しちゃっているのか? スパークリングなのか。
まったくもってわからないので、とりあえず出番まで、そっと冷やしておこう。
今夜もまた、お相手が想像つかない。パルミジャーノにコンテ、スモークサーモン、牡蠣のオイル漬け(つまり家にたまたまあったもの)を用意して、開栓することにした。
「ボンッ」。
栓抜きで開けた瞬間、軽快な音がして、泡が瓶口に向かい、一気にせり上がってきた。
あわててグラスに注ぐ。おお、あなたは、スパークリングだったのか。複雑な紅色に、白い泡が美しい。
そこで、シャンパングラスと口径の広いボルドー型グラス、両方に注いでみた。
なにかこう、シャンパングラスの中のワインは、泡を勢いよく立てながら、気恥ずかしそうでもある。
一方ボルドー型グラスの方は、泡を登らせながら、くつろいでいるようでもある。
どちらのグラスでもうまい。だが、すうっと入り、喉に落ちる、キレのいいシャンパングラスもいいが、ボクはボルドー型グラスだな。
味の問題ではない。舌全体にゆったりと広がり、それをゴックンと飲み込む感覚が、このワインに合っているように思うのである。グラスの足をつかんで飲むシャンパングラスよりも、グラスを手で包み込んで飲む方が、どうも似合うように思う。