オーストラリアの国土は日本の20倍!
この国の大きさに驚かされることが多々ある。総面積は、世界第6位。私の住むオーストラリア西端の都市パースと東端の都市シドニーとは、時差が3時間もある。そんな広大な土地を持つオーストラリアは、もちろん様々な気候の特徴を持ち合わせる。
出来るワインも多種多様である。今回は、私の住むパースから車で南西へ3時間ほどの場所に広がるワイン産地「マーガレット・リバー」についてお話したい。
ボルドーに似ている!?
時代は今から遡ること53年。1966年7月14日、現地の有名大学University of Western Australiaのジョン・グラッドストーン博士により、ある新聞記事が発表された。「西オーストラリア州の南西にブドウを植えると良い」それは、フランスの名門ワイン産地ボルドーとブドウの栽培環境が実に似ているからだ。
どの点が似ているのか。それは、土壌、そして海からの影響である。異なる点は、気候。ボルドーの持つ海洋性気候に変わって地中海性気候を持ち合わせるこの地域では、ブドウが育つ重要な時期に降水量が極端に少ない。つまり毎年、確実に高品質のブドウが栽培出来るのだ。
どの御時世にも、先見の明を持つ人は存在する。1960年代前半、この新聞記事を受ける前から西オーストラリア州の南西「マーガレット・リバー」に可能性を感じカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培を始めたのが、トム・カリティ博士である。
丁寧に育てられたカベルネ・ソーヴィニヨンは、1972年にトム・カリティ博士の初ヴィンテージ「ヴァス フィリックス カベルネソーヴィニヨン マルベック」として誕生。
ヴァス フィリックス
今やオーストラリア国内のみならず、ワイン愛好家であれば一度は耳にしたことがあろう大手ワイナリー「ヴァス フィリックス」は、トム・カリティ博士の植えたわずか2エーカーの畑から始まったのだ。トム・カリティ博士は、1985年に畑とワイナリーを手放したものの、今もなお彼の植えたカベルネ・ソーヴィニヨンは、ヴァス フィリックスの自社畑で立派なブドウを実らせている。
ヴァス フィリックスの現在のオーナー ポール・ホームズコートの計らいで、2013年より「トム・カリティ カベルネ・ソーヴィニヨン」が誕生。トム・カリティ博士が、当時に植えたブドウのみを使用し、彼のブレンドと同様、必ずマルベックを加えるのだそう。原点(初心)を大切にという気持ちと、新しいことへのチャレンジ精神が感じられる。ポール氏から、このお話を聞いた時には、彼のトム・カリティ博士への敬意や感謝を感じた。
ワインを通じて、受け継がれる歴史や人間関係。ワインは、ただの飲み物ではないとつくづく思う。ワインの世界では、新世界と呼ばれるオーストラリア。ヨーロッパに比べると、ワイン造りの歴史は、まだまだ浅いのである。それでも、ここでのワインには、飲んだ人の心を動かす歴史と想いが込められている。ヴァス フィリックス トム・カリティ カベルネ・ソーヴィニヨンを飲んで、オーストラリアの歴史に触れ、大地や人々からのメッセージを感じた。私たちが、これからこの歴史を受け継いでいこう。国土と同じくオーストラリアワインの、無限に広がる可能性を感じるのだ。
担当者:Carl Robinson