南イタリア、プーリア州のレッチェ、「バロックのフィレンツェ」という呼び名を持つ美しい都市である。
2011年9月、わたしはこの地を再訪した。いつもの女ひとり旅だ。前回、偶然入ったカフェの上品なオーナーが、「わたくしどもは、お部屋もご用意しておりますのよ。ご覧になる?」「はい!ぜひぜひ!」 市内中心部の歴史的街区にある、こちらの建物は、もともとは「シナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)」だった。建物好きのゴローザとしては、興味津々。6部屋中空いている2部屋を見せてもらった。
「次回のレッチェはここに泊まろう!」…そんな訳で再びやってきたのだ。さあて、今夜の Cena(ディナー)はどこで食べようか… 散策して一旦部屋に戻り、着替えをして出かける。イタリア人というのは、たとえカジュアルなディナーであっても、(一般的には)昼間と同じ服装では出かけない。アクセサリーを変えるたけでもいいし、ちょっとおめかしする。「みること、みられること」を好む民族で、お互いに関心を持ち合い、褒め合うひとたちなのだ… 楽しいではないか。という訳でこういう良い習慣はわたしもマネをする。
白のコットンブラウスに黒のちょっと個性的なミニスカート、手元には大胆なデザインの「黒真珠と白蝶貝のリング」。宿の裏手の小路を行くと、すてきなレストランがあった。ここに決めた! この季節は店内で食事をするより、戸外のテーブル席が断然気持ちいい。入口に近い二人掛けのテーブルに案内された。「なにを食べようかな?」 少し先には6~7人のグループがわいわい食事を楽しんでいる。
グラスに赤ワイン、アンティパスト。プーリア料理好きだなあ… 舌鼓を打ってプリモのパスタ料理を食べていたときだ。「あら?なんか変!」視線に入るなにかが変なのだ… 違和感が禁じ得ない…「きゃー!黒真珠がない!」
白蝶貝の部分にはぽっこり穴が空いている… 確かアンティパストまでは、この変な感じはなかった… とすると、無くなったのはこの席だ… ゆっくりプリモを食べることなど、もはやできないわたし… イスやテーブルの下をそれとなく探すが見当たらず… 下ばかりキョロキョロ気にするわたしを、グループの「ひとり」がチラリ。なんとしてでも見つけなきゃ、席を立ってイスやテーブルクロスの下も… もはや人目など気にしている場合ではない。
すると、さっきの「ひとり」が「どうかしましたか?」 わたしは空になったリングを見せて、「ブラックパールを探しているんです… イタリア製のとっても気にいってるリングなんです… どうやらここで落としちゃったみたいで…」グループメンバーに、カメリエーレ(ボーイ)も参加して「わたしの落とし物」捜索がはじまった。
食事を中断して、みんな地面を眺めてくれている… すると「クワ、 クワ、 クワッ!(あった!ここだよ!ここ!)」 別の「ひとり」が転がっている黒真珠の「珠」を指さした。どうやら意外な方向に転がっていたようだ。「よかったね~!よかったわ~!」みんなニコニコ拍手喝采。イタリア人てほんとに親切… わたしってほんとにドジ… 2回目のレッチェの想い出は「バロック建築」ではなく、「バロックの黒真珠」だったというわけだ。
【イタリア語豆知識】
※ QUA クワ (「ここに、ここで」という意味のイタリア語、今回のようなシチュエーションでは2~3回繰り返して使う)