
浜名湖畔の実家にて。
午後のお茶をいただくとしよう。普段ならミルクを入れた濃い目のアッサムとなるのだが、今日はアールグレイが飲みたい気分。お菓子はプレーン&ブルーベリースコーンにクロテッドクリームを添えて。
30年前、ロンドンのとあるティールームで念願のアフタヌーンティーを愉しみ、木箱入りの茶葉を6種類も買ってきた。当時はもう二度とイギリスなんて行く機会はないだろうからと、紅茶にまつわるいろんなものを買いこんだ。その頃のわたしは、父親譲りの紅茶党。ボーンチャイナのティーセット、茶こしやスプーンなどの銀器、ティーコジー、ティーマットなど、とてもじゃないけど持ち帰れないので、それらを船便で送るように手配した。まだかまだかと首を長くして待つこと三カ月、とてつもなく大きなダンボールが届いたのだ。
梱包材で幾重にも包まれた茶器類を、箱の中から探し見つけ出していくのは、宝探しのようで楽しかった。八畳間が見る見るうちに新聞紙と梱包材の山になった。さっそく届いたばかりの紅茶が飲みたくなった。アールグレイというノーブルな響きに惹かれて封を開けた。なんとも独特な香りが立ち上がる。
後で知ったことだが「アールグレイ」は19世紀初頭、外国使節として中国奥地を訪れた「グレイ伯爵」の名に由来する。なるほど、貴族的な雰囲気とエキゾチシズムが漂うわけだ。中国茶にシチリア産ベルガモットの香油でフレーバーをつけたという。
せっかくなら、ぬくもりのある午後のお茶の時間を過ごしたい。八畳間の一角にローマで買った小ぶりの絨毯を敷き、カフェテーブルを置いてみた。室内窓からは柔らかい光りが差し込んでいる。椅子は父のお気に入りだったロッキングチェア。座布団カバーは母の手作りで、着物の帯をほどいて作ったもの。和洋折衷のしつらえ。控えめな美しさ。静かな午後。ベルガモットの香りとともにわたしの「こころの風景」が広がった。