夕闇迫る頃、そわそわとした足どりで大通りをゆく。気分は幾分華やいでいる。行き先は、とあるイタリアンレストラン、極上の時間が過ごせる場所だ。
馴染みのスタッフが笑顔で迎えてくれる。まずは「Alla salute!」スプマンテで乾杯だ。フルートグラスに立ち上がる気泡がきれい。
アンティパストをいただこう。ソムリエがワインをデキャンタージュしている。ボトルの中で眠っていたワインが再び目覚め始める。そう、ワインは生き物なのだ。ブドウ畑やそれぞれのヴィンテージによって個性や魅力が表現される。
グラスにワインが注がれる。色を愛で、時間と共に変化する香り、味わいを楽しもう。今宵セレクトしたのは、ピエモンテ地方の「PRACHIOSSO Roero」ネッビオーロ種というブドウからできている。
濃いルビー色で、薔薇やベリーの香りを含む。プリモピアットの「黒トリュフのタヤリン」との相性は申し分ない。ピエモンテは良質なワインの産地、美食の地としてよく知られている。
ワインといえば、こんなエピソードがある。「男社会」であった古代ローマ、初代の王ロムルスの時代には女性がワインを飲むのは厳禁だった。その罪は重く、破れば死刑。妻がワインを盗み飲んでやしないか、主人が確かめたのが「BACIOバーチョ(キス)」の始まりだったようだ(Eva Cantarella著【DAMMI MILLE BACI】より)。現代では考えられない法律である。古代ローマに生まれてなくてほんとうによかった。
セコンドがサービスされる頃になるとほんのり頬が赤らんでくる。ブーケが開き、ふんわりとエレガントなタンニンと甘い果実味が溶け合っている。最後の雫を飲み干そう。
やがてデザートワゴンが運ばれてきた。数種類のドルチェが並ぶ。どれにしようか迷うのもまた嬉しいときめき。締めはもちろんエスプレッソ。お土産にプティフールをいただいてお腹も心も大満足。心地よい余韻とともに家路につくとしよう。夜風が気持ちいい。