避暑地として賑わう夏と対照的に、重厚で落ち着いた味わいを見せるこれからの季節の軽井沢。夏には予約必須の人気店でも比較的入りやすく、また観光スポットも空いていることが多いので気の向くままに観光が楽しめる。なお、冬季休業のお店もあるので事前に要チェックであるし、車で訪れるなら冬用の装備を準備しておこう。
黄金に色づいた葉が夕日に反射する小道。民家の壁に沿って積まれた薪が、これから長く厳しい冬が来ることを示している。六本辻近くのカフェ「Raffine」でホットコーヒーとシフォンケーキをいただく。ここのコーヒーは酸味と苦みのバランスがよく、また二杯目以降がお得な料金になっているので、来るといつも長居してしまう。森の中に建つレンガ造りの建物は通りから少し奥まった所にあり、木製の看板こそあるものの車で走っていると通り過ぎてしまいそうで、それが一層このカフェを心落ち着く場所にしているのかもしれない。夏には走り回るリスの姿が見えた庭には冬前の夕日が長い影を作っている。
軽井沢の冬は寒い。まして夜はなおさらで、矢ヶ崎公園のイルミネーションを見にコートを着込む。大通りを外れると辺りは真っ暗で、空にはオリオン座が輝いている。クリスマスの飾りの、ライトアップされた小さな家々はまるで自分がサンタクロースになって北欧の街を空から眺めているよう。
きーんと冷えた空気の中、モミの木に彩られた電球を見ていると、サンタクロースを信じていた小さい頃のクリスマスを思い出す。あの頃は何を考えていたのか自分でも分からないけれど、大人になる過程で多くのことを知りすぎてしまったのかもしれない。
そんな事を考えているとさっきまで晴れていた空から小さな雪が降り始めた。それはまるで妖精のように宙を舞っては落ち、空を見上げると暗闇から次々と白い粉雪が舞い降りてはこの街の色を変えていく。明日のゲレンデはパウダースノーかな、早起きして行くためにもう戻らなきゃ。
雪降る街の中に暖かそうに灯る家々の明かりが、白くなりはじめた路面に残す足跡とそれをかき消すように積もっていく雪を照らす。古いものが徐々にかき消され新しいものが上書きされていくのはまるで記憶のようだ。楽しかった事も、辛かった事も時と共に色あせてしまう。
しかし深く心に刻まれた記憶はふとした瞬間に蘇るもので、この雪降る街でそれをほんの一瞬でも思い出せたなら、それは白い妖精からの贈りものなのかもしれない。
この記事を書いた人
- クルマと共に過ごす豊かなライフスタイルを提案。スポーツカー、ドイツ車を中心に試乗レポートを執筆する一方で運転技術への関心も高く、各メーカーのドライビングイベントへ参加する傍らレーシングカートも嗜む。
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