ここはアムステルダム。太陽が沈みゆく空を眺めながら、水路沿いのベンチで休憩していると目の前を船が優雅に行き交う。大きい船を通すための跳ね橋も見える。対岸には100年以上前に建てられたであろうレンガ造りの建物に、石畳の歩道。うまく表現できないけれど、街並みが落ち着いていて美しい。
手元にはさっき買ったコーヒー。少しだけ海外経験がある私は特に難なく買ってしまったし、こうしてベンチで一息つくのも日本にいる時と何も変わらないから異国の地に来ている事を忘れそうになるけれど、遠くに聞こえる哀愁漂う路面電車の警笛に自分が遥か遠くに来ている事を思い出しちょっと心細くなる。
初めてヨーロッパに興味を持ったのは、小学校で音楽の時間にかの地が舞台の映画を見せられた時だろうか。たしか「CHORUS」というタイトルだった気がする。劇中で初老の男性が雨降る森の中の道でAudiのセダンを運転していて、幼心に渋いと思ったのだ。
筆者が行った場所で一番気に入ったのは、ミッフィーの原作者の故郷でもあるユトレヒト。中世の領邦制の名残で中心部に大きな教会が建ち、正時に鐘が鳴る。この鐘の音を聴きながら歩いていると、昔読んだ童話の世界に入りそうになるほど美しい街だ。一方で大通りに出れば環状交差点や電気自動車の充電スポットなど先進的な光景が広がっている。よくヨーロッパの人々は良いものを長く大切に使うとか、環境意識が高いとか言われる所以が分かった気がした。
帰りの飛行機が離陸しどんどん小さくなる街並み。どこかの教会と、それを囲むように建てられた家々が見える。きっとこの国は、時が経って新しいものを取り入れることはあっても古いものと融合・共存させるのだろう。あの日水路沿いのベンチで見た光景、教会の鐘の音、風車やその他数えきれない思い出たちを胸にしまい、私は日常に戻った。
この記事を書いた人
- クルマと共に過ごす豊かなライフスタイルを提案。スポーツカー、ドイツ車を中心に試乗レポートを執筆する一方で運転技術への関心も高く、各メーカーのドライビングイベントへ参加する傍らレーシングカートも嗜む。
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