シャンパーニュは最後の仕上げに、「門出のリキュール」と呼ばれる甘いお酒を入れ、ボトルの口をコルクで閉じる。
このリキュールを加えることをドザージュというのだけれど、最近ではこのドザージュを減らすのがトレンド。辛口が好き、糖分が気になる、そんなあなたに、辛口シャンパーニュを紹介。
2021.10.6
シャンパーニュは最後の仕上げに、「門出のリキュール」と呼ばれる甘いお酒を入れ、ボトルの口をコルクで閉じる。
このリキュールを加えることをドザージュというのだけれど、最近ではこのドザージュを減らすのがトレンド。辛口が好き、糖分が気になる、そんなあなたに、辛口シャンパーニュを紹介。
シャンパーニュはいまから150年くらい前は甘いお酒だった。1リットルあたりの糖分量は、もっとも辛口を好んだというイギリス向けのものでも100g、フランス向けで200g、もっとも甘口を好んだというロシアの貴族たちに向けられたものには、1リットルあたり250gもの糖分が含まれたものもあったという。
辛口を初めて出荷したのはエペルネに本拠地を置くペリエ・ジュエで、1856年のこと。その糖分量は1リットルあたり20〜22gだったそうで、イギリスに向けられたものだった。1869年、現在のモエ アンペリアルの原型であるブリュット アンペリアルをモエ・エ・シャンドンがリリースした際は、100g/リットル以下の糖分量。これは、現在のコーラくらいの糖分量だ。
いまでは、そこまで甘いシャンパーニュにはまずお目にかかれない。
現在のシャンパーニュは1リットルあたりの糖分量に応じて、ラベルの表記が変わり
Doux(ドゥー) 50g/L以上
Demi Sec(ドゥミ・セック) 32~50g/L
Sec(セック) 17~32g/L
Extra Dry(エクストラ・ドライ) 12~17g/L
Brut (ブリュット) 12g/L以下
Extra Brut (エクストラ・ブリュット) 0~6g/L
このいずれかが書かれている。
エクストラ・ブリュットのほかにも、辛口のシャンパーニュでは、3g未満、または全く糖分を加えていないとBrut Nature(ブリュット・ナチュール)、Pas Dose(パ・ドゼ)、Dosage Zero(ドサージュ・ゼロ)などの表示が認められている。
シャンパーニュ以外のスパークリングワインでも同様の基準と表記を採用している場合がほとんど。
甘くないスパークリングワインが欲しい人は、ブリュット、エクストラ・ブリュットから選ぼう。
いま、シャンパーニュといわれてイメージする、もっとも普通のシャンパーニュがブリュット。ドゥミ・セックは、ハーフ・ドライといった意味ながら、甘口だ。
最近は低ドザージュ傾向で、ブリュットといっても10グラム未満が当たり前。あえてもう一段階辛口のエクストラ・ブリュットをラインナップに加えたり、ドザージュゼロに踏み込む造り手が増えている。
低ドザージュトレンドには、そのほうがシャンパーニュファンに人気があるから、素材の味を重視した食事が増えたからという理由がある。
さらに、以前よりもシャンパーニュ地方が温暖化して、ブドウの熟度を上げやすくなったこと、栽培・醸造技術の進歩で、素の状態のワインでも表現方法が増え、ドザージュがなくても複雑なシャンパーニュを造れるようになったことも関係している。
辛口シャンパーニュはナチュラルメイクだ。
ラリエ
R.012N ブリュット・ナチュール NV
ラリエはアイ村の小さなメゾン。R.012は2012年の原酒がベースという意味。アイ村のロリドンという区画に自生する酵母で一次発酵。酸が強く、スーパーシャープ。
フィリポナ
ロワイヤル・レゼルヴ ノン・ドゼ NV
「クロ・デ・ゴワス」で有名な、マルイユ・シュル・アイ村のメゾン。オーク樽熟成のリザーヴワインが35%。鋭い酸のタイトなシャンパーニュ。
アルフレッド グラシアン
ブリュット ナチュール NV
小樽発酵の原酒にこだわるエペルネのメゾン。マロラクティック発酵はなし。リザーヴワインは平均40%。酸味はもちろん強いけれど、果実味、苦味、ミネラル感などから、丸みも感じられる。
ピエール・ジェルべ
ロダス・ブリュット・ナチュール NV
シャンパーニュ地方の南部、ピノ・ノワールの名産地、コート・デ・バールのセル・シュール・ウルスにあるNM。実質は自社畑のブドウを100%使用。栽培家たちによる動植物保全のための認証「AMPELOS」取得。亜硫酸無添加。ドザージュ0ながら、果実感のあるマイルドな印象で、酵母に由来する香ばしさも感じられる。
シャンパーニュ・ボーモン・デ・クレイエール
フルール・ド・ムニエ ブリュット・ナチュール 2012
珍しいムニエ100%かつドザージュゼロ。黄桃や熟れたリンゴなど甘いフルーツ、ブリオッシュの香りがあり、酸は穏やか。
ビルカール・サルモン
ブリュット・ナチュール NV
マレイユ・シュル・アイ村に拠点を置く、高品質・少量生産の名門。長い熟成期間をとり、こちらも4年熟成。リザーヴインが49%も占める。重層的なおかげで、糖分がなくてもバランスがとれている。旨味も強い。
ポル・ロジェ
ピュア(エクストラ・ブリュット)NV
家族経営のエペルネのメゾン。イギリスの著名人にファンが多いことでも有名。エクストラ・ブリュットの表示ながらドザージュはゼロ。和柑橘の香り、洋梨のような味わい、火打ち石のようなミネラルがあり、デリケートなシャンパーニュ。
ブルーノ・パイヤール
ドザージュ・ゼロ Multi VT(マルチヴィンテージ)
1981年創設ながら、フランスガストロノミー界を席巻し、辛口のシャンパーニュのメートル原器となった。リザーヴワインが50%に及ぶマルチヴィンテージ。原酒の大部分は樽発酵。リザーヴワインには瓶で10年以上寝かせたものも。グレープフルーツに白檀のようなオリエンタルスパイスが香り、多元的で落ち着いている。
ラルマンディエ-ベルニエ
テール・ド・ヴェルテュ ノン・ドゼ プルミエ・クリュ 2013
コート・デ・ブランのヴェルテュ村にあるビオディナミのRM。原酒はオーク樽による発酵。シャープでタイトな柑橘系の酸味は、マウスウォータリング(唾液が滴り落ちるよう)。後口に旨味。
シャンパーニュ・エンクリ
エンクリ ドサージュ・ゼロ グラン・クリュ NV
2004年メニルに3haの畑を購入し、2005年に初リリースしたイタリア人のメゾン。畑はサロンとクリュッグに挟まれている。リザーヴワイン20%。爽やかな甘味のある香りと、透明感のある味わい。
シャンパーニュ ジャクソン
シャンパーニュ キュヴェn° 743 NV
大樽発酵熟成にこだわるヴァレ・ド・ラ・マルヌはディジー村のメゾン。リザーヴワイン20%。グレープフルーツと青リンゴようなフレッシュな香りがあり、口当たりはなめらか。ボディ感、熟成感もあり、バランス良好。
シャンパーニュ・ボワゼル
ボワゼル・シャンパーニュ ブリュット ウルティム NV
エペルネにある中規模のメゾン。リザーヴワインが40%。6~8年熟成させているためか、酵母由来のブリオッシュやバターを含んだパンの印象、柔らかく、リッチな口当たりを実現。豊かな酸は中盤から。
ローラン・ペリエ
ローラン・ペリエ ウルトラ ブリュット
トゥール・シュール・マルヌのメゾンで、ドザージュゼロのパイオニア。いわば、元祖素肌美人。熟度が高く、酸が低めのブドウを用い、最低6年の熟成。緻密でフレッシュな酸。後口にほろ苦さがある。
ルイ・ロデレール
ブリュット・ナチュール・ブラン フィリップ・スタルク 2012
ランスのルイ・ロデレールがデザイナーのフィリップ・スタルクとコラボして生み出したブリュット・ナチュール。ブドウはビオディナミ栽培。原酒の15%が樽発酵。マロラクティック発酵なし。なめらかな舌触りと、甘みのある柑橘や洋梨のような香りに、クッキーやコーヒーのような香りが加わる。口の中でひろがる味わいには、酸味とともに旨味がある。
ポメリー
キュヴェ・ルイーズ・ナチュール 2004
ブリュットのパイオニア、ポメリーの最上級「キュヴェ・ルイーズ」のドザージュゼロ版。キュヴェ・ルイーズ同様、約15年という長期瓶内熟成により、秋や冬を思わせる、リンゴのタルトやキャラメルといった温かみ、キノコやコーヒーをおもわせる熟成した風味が、溌剌とした酸味が同居する。ひとつの頂点。
ポール・ローノワ
モノクローム グラン・クリュ NV
メニル・シュール・オジェのRM。長く協同組合にブドウを売っており、シャンパーニュ醸造は2015年から。リザーヴワイン30%。わずか1g/l のドザージュながら、香りのニュアンスが豊かになる。みずみずしい香り、酵母の風味も焼きたてのパンのようで、愛おしいほどにピュア。
シャトー・ド・ブリニ
クロ・デュ・シャトー NV
南部コート・デ・バールのRM。シャンパーニュの認定7品種が植えられた0.9ha の区画で、ピノ・グリを除く6品種から造られている。フレッシュにして複雑な個性的なシャンパーニュ。
シャンパーニュ ドゥヴォー
ウルトラD NV
シャンパーニュ南部コート・デ・バールのメゾン。大部分をオークの小樽で熟成させたリザーヴワインが35%。最低5年の熟成。リンゴや栗、スモーク、味醂のようなニュアンスもある。
ランスロ ・ピエンヌ
ターブル・ロンド NV
コート・デ・ブランはクラマンを拠点とするRM。このシャンパーニュは、クラマン、アヴィーズ、シュイィのシャルドネから造られている。クリーミーで硬すぎない酸。ナツメグやクミン、ハーブの爽やかさがある。
シャンパーニュ ジャカール
モザイク・エキストラ・ブリュット NV
ランスに本拠を置くメゾン。リザーヴワインが全体の1/3。ブリュットの3年に対し、5年の瓶内熟成。ドザージュのおかげか、バラのようなはなやかな香り、ちょっとスパイスの聞いた味わいの、ピュアでありながら親しみやすいシャンパーニュ。
パイパー・エドシック
ブラン・ド・ブラン エッセンシエル NV
ランスのパイパー・エドシックが近年リリースしたブラン・ド・ブラン。リザーヴワイン35%。ピュアでフレッシュな酸味とモモのような甘い果実の印象。キャラメルのような風味も。苦味が後味にある。期待通りのブラン・ド・ブラン。
シャルトーニュ・タイエ
キュヴェ・サンタンヌ ブリュット NV
ランスの北、シャンパーニュ地方の北限、マッシフ・サンティエリーのメルフィに本拠を置くRM。熟成期間がそこまで長くないため、酵母の影響がすくないが、それが良さになっている。バランス良く、複雑。酸味もとげとげしくない。
シャンパーニュ J. ヴィニエ
オラ・アルバ グラン・クリュ NV
セザンヌにも畑をもつ、クラマンが拠点のRM。クラマン、シュイィ、オワリーのブドウをブレンド。最低6年の瓶熟成。熟成したシャンパーニュの複雑味とブラン・ド・ブランの緊張感ある酸味、苦味が愉しめる。
モエ・エ・シャンドン
グランヴィンテージ
モエ・エ・シャンドンのグラン・ヴィンテージは以前からドザージュ6g/l 未満だったが、表示はブリュット。2009年ヴィンテージ以降、エクストラ・ブリュットに。写真とデータは2012年ヴィンテージ。現行は2013年ヴィンテージが販売されている。低ドザージュはブドウの個性をよりよく引き出すため。
リザーヴワイン
ブドウの成熟度、酸度、糖度は毎年異なる。そこで、優れた品質のブドウが収穫された年のワインをストックしておくのがリザーブワイン。リザーブワインを持つことはシャンパーニュでは義務。不作の年にも品質を維持できるよう補填に使用される。古いものならわずかに加えるだけで味わいの複雑味が急激に増すという。
NV
ノン・ヴィンテージ。単一の収穫年のブドウではなく、リザーブワインをブレンドしていることを指す。様々な年のワインをブレンドしていることを強調するためにマルチヴィンテージという言い方をする造り手もいる。
マロラクティック発酵
アルコール発酵に続いて起こる反応で、自然に存在する乳酸菌、あるいは人工的に添加した乳酸菌で、ワイン中のリンゴ酸が乳酸に変わる現象。リンゴ酸が青リンゴのような風味の鋭い酸味の一方、乳酸はまろやか。また副産物的に、バターやヘーゼルナッツ、バラの香りが生まれる。
NM
ネゴシアン・マニュピュラン。所有するブドウ畑のブドウのほかに、購入したブドウ・果汁・原酒も使う造り手。
CM
コーペラティブ・ド・マニュピュラシオン。協同組合員から仕入れたブドウを使い、自ら所有する醸造所で生産を行う造り手。
RM
レコルタン・マニピュラン。レコルタンはブドウを収穫する人、マニピュランはシャンパーニュを醸造する人なので、自社畑で収穫されたブドウのみ用いてシャンパーニュを醸造する農家を指す。年ごとのバラツキが大きい反面、土地の個性を反映させられ、個性的なスタイルのシャンパーニュの場合が多い。