カリフォルニアの名門に迫る味
マンハッタン島を出発しイーストリバーを渡ると、ロングアイランドと呼ばれる地に入る。
その名の通り、長さが約190キロもある長い島だ。ニューヨーク市を構成する5区(マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、スタテンアイランド、ブロンクス)のうち、クイーンズとブルックリンはこの島の中に位置する。
ワイン畑が連なるワイナリーロードが始まるのは東に120キロ程度走ったあたりからだ。春から秋にかけ、この道はワインファンが押し寄せるスポットへと変貌する。
最初の苗が埋められたのは1973年のこと。歴史は浅いが、ワインを愛する人々によって、努力と試行錯誤が積み重ねられてきた。その結果、近年、賞を取るほど美味しいワインが醸造されるようになった。オバマ大統領2回目の就任式で出されたレッドワインもこの地で醸造された逸品。カリフォルニアの名門ワインに迫る味と評判だ。
良質なブドウは、約1万年前までこの地を覆っていた氷河の堆積物によって造られた肥沃な土地と、ブドウ栽培に適した気候によって育まれる。夏は比較的涼しく、冬は温和。雨が多い。フランスのボルドーの海洋性気候に類似していることから、「ニューヨークのボルドー」と異名をとる。
42軒あるワイナリーはそれぞれ個性的で、すべてを制覇したい気持ちに駆られる。とはいえ、1日に3~5軒のはしごが精一杯。時間に余裕があれば、ワイナリーが経営しているBB(ベッド&ブレックファスト)や浜辺のモーテルなどに宿泊したい。鹿、アライグマ、グースなどに遭遇し、晴れた夜には、満天の星空に横たわる天の川が海に映る。大自然あふれる場で飲むワインは生涯の思い出となるに違いない。
アメリカ最古のワイナリー
マンハッタンからハドソン渓谷を北上した内陸部にもワイナリーがいくつか存在する。中でも「ブラザーフッド(Brotherhood)ワイナリー」は創業1839年という長い歴史を持つ、アメリカ最古のワイナリーだ。
お隣のブルックリンには、アメリカ全土からブドウを取り寄せて醸造しているワイン工場がある。地下鉄で15分、気軽に行けるので、毎晩、隣接したバーはニューヨーカーたちで賑わう。
そんなこんなで今、ニューヨークはワインが人気沸騰中。
それも消費地ではなく生産地として(!)、アメリカ国内にとどまらず、ヨーロッパのワイン愛好家からも注目されている。日本に、この情報が行き渡っていないのは残念なことだ。
だから、これからニューヨークワイナリーの探訪記をつづっていくことにしたい。