自然なスプマンテ造りでフランチャコルタに挑む
Azienda Agricola Cherubiniはミラノから電車で1時間程東側の都市ブレーシアにあります。Mattia Cherubiniはこの地に生まれ、父がレストランを営む環境で育ちました。
2010年スプマンテ造りをはじめ、当初は他所を借りて醸造していました。昨年2013年に醸造所を設立しました。
フランチャコルタ地区外に位置するため、DOCG制度上フランチャコルタ(フランチャコルタ地区内で独自の厳しい規定で造られるイタリア最上級のスパークリングワイン)と名乗ることはできませんが、あえて同じ手法つまり瓶内二次発酵による伝統的手法メトドクラシコによるスプマンテに挑戦しています。
ブレーシア駅から車で15分程度ですが、ワイナリーは緑に囲まれた環境にあります。畑でケミカルな製品、除草剤を使用しないオーガニックなビオロジコ農法を用いています。訪れた4月初旬はまだブドウは発芽前でしたが下草は青々として、手でかき分けないと前に進めないほど勢いがあります。
Mattiaによると、根が深い方が微生物が土中で活性化し養分のある土壌を生み出すので、雑草も取り除かずそのままにしています。ためしに雑草を抜いてみると40センチ以上はあるかと思われる根っこがあり、生命力を感じます。土壌は石灰岩と粘土質で土の表面は黒色ですが、20センチほど掘ると赤い粘土質土壌が現れます。これが酸味とミネラルを与えるそうです。
畑ではトラクターは用いず(収穫時縦の移動のみ小型トラクターを使いますが)、急勾配をMattiaが基本的には一人で耕作、剪定などの作業を行っています。これはトラクターで土を固めることで土中の微生物やミミズなどが死滅してしまうのを防ぎ、またトラクターからの排ガスを避けるためです。
畑の中央に3メートル四方の貯水池があり、これは雨水をためておいて畑に散布するためのものです。水道水よりも植物にとっては心地よく温度も自然だからです。
醸造所内でも自然な造り方を徹底
元牧舎を改造した小さな醸造所内にはセメント槽が並んでいます。余計な香りがつくのを防ぐため、あえてステンレスタンクは発酵に使わずセメント槽で温度も自然任せにしています。半地下の醸造所は夏でも涼しく、一定の湿度も保つことができるからです。培養酵母ではなく野生酵母による自然発酵でまず第一次発酵させワインを造ります。
この第一次発酵が終わったワインを樽から試飲しました。この樽も木の香がワインにつくのを避けるため新樽ではなく古い樽を使用しています。十分このままスティルワインとして売り出せるほどの品質でしたが、彼はスプマンテが好きなのでワインの商品化は今のところ考えてないそうです。
動瓶も全て自らの手で
続いてスプマンテの動瓶台を見学しました。
動瓶とは瓶内二次発酵、熟成を経た瓶を穴の開いた逆Vの字の脚立に瓶口を差し込み、毎日少しずつ回転させ、水平だった瓶を徐々に何日もかけて逆さまにすることで、瓶口に澱を集めるという気の遠くなるような作業です。
現在は機械化によりまとめて回転させるワイナリーが多いのですがMattiaは自らの手で行っています。
珠玉のスプマンテ三種飲み比べ
醸造所の2階の試飲室で、目の前に広がるブドウ畑をみながら3種の試飲をしました。
SUI GENERIS(BLANC DE BLANCS DOSAGGIO ZERO)は、シャルドネ100%の36ヶ月瓶内二次発酵、ドサージュゼロのスプマンテ。
飲んだ時のきれいな酸ときめ細かい泡が印象的。
LEVIS(ROSE’ DOSAGGIO ZERO)はピノ・ネロ(ピノ・ノワール)100%の48ヶ月瓶内二次発酵、ドザージュゼロのロゼスプマンテ。
甘くないきりっとした味わいと、奥行きのある味わい、ミネラルとコクと余韻。
SUBSIDIUM(DOSAGGIO ZERO RISERVA)はシャルドネとピノ・ネロの60ヶ月瓶内二次発酵スプマンテ。
バランスのとれたミネラルと酸、骨格があると同時に透明感もあり、クリアで溌剌としたきめ細かな泡は圧巻。
高品質と自然派ならではの喉ごしの優しさが両立することに驚きを感じました。
実はこのワイナリー訪問前にVINITALYというイタリア最大の国際ワイン展示会に参加して、数多くの名門ワイナリーのフランチャコルタを試飲する機会に恵まれましたが、それら匹敵する質感と味わいがあります。
こんな素朴なワイナリー(失礼?!)のどこにそんな魔法が隠されているのかと思いました。
きっと畑でも醸造所でも、ありのままの自然さを大切にする、Mattiaの一貫したスプマンテ造りにかける情熱と日々の丹念な仕事への姿勢が、こんなみずみずしいスプマンテを生むのでしょう。