クラスメイトは同郷の人!!
訪問したのは、新潟ワインコーストにある5軒のワイナリーのうちの1軒、フェルミエだ。
こちらの経営者である本多さんの奥様と、たまたまワインスクールでクラスメイトになったところから話が始まる。しかも彼女は、偶然にも私と同郷!!。「これもワインの神様のお導き」とばかりに初めて新潟を訪れることにしたのだ。
もちろんフェルミエのワインの秀逸さはすでに聞き及んでいたし、実際にワインを飲んだこともあったので、前から一度訪問したいと思っていたところだった。
潮風そよぐブドウ畑
10月の秋晴れの日、テイスティングツアーに参加した。ワイナリーに併設されたレストランの前にある自社畑からスタート。代表取締役であるご主人の本多さんが説明してくれた。収穫はすでに終了している。
新潟と言えば豪雪地帯というイメージがあるが、ここ越前浜は比較的雨が少ないところだという。ワイナリーの後ろには日本海を挟んで佐渡ヶ島がよく見える。海は目と鼻の先だ。ここは佐渡ヶ島と本土に挟まれた海と、後ろにそびえる角田山の影響で、新潟の他の地域より暖かいのだそうだ。土壌は砂質土壌。海抜は20m程度で、かつて角田山が噴火した際に出た溶岩の上に砂が堆積している。
こうした環境がスペイン北西部のリアス・バイシャスとよく似ていることから、今ではフェルミエの代名詞となっている、アルバリーニョの栽培につながった。アルバリーニョはスペイン原産の品種で、果皮が厚いため病気に罹りにくく、雨や湿気に強いことから海に近いリアス・バイシャスで成功している。また、今年は特に台風の多い年だったが、各地で話題となった塩害もなんのその!アルバリーニョは塩分にも強いのである。
基本的に化学肥料や除草剤は使わない。土壌や樹の持つ、自然の力で永続的にやれるようにしているのだそうだ。
興味深かったのは納豆を使った方法だ。市販されているパックの納豆にヨーグルトや酵母を加えて発酵させ、それをミキサーなどで細かくし、水で希釈して畑に撒く。農薬ではないので普通の格好で作業できるし、バチルス菌には殺菌作用がある。それが土に浸み込むと、土中の微生物の働きが活発になる。“一石三鳥!”くらいの効果だ。ブドウ樹に納豆とは面白い!
徹底した管理!こだわりのワイナリー
ワイナリーでは、ブドウを低温で冷やすところから始まる。とにかくブドウの品質が第一。収穫したブドウに亜硫酸は添加せず、4℃に設定した冷蔵庫に保管する。除梗機は機械がふるえてブドウの粒を落とすタイプで、なるべく酸化させないように優しく、果粒だけが取れる仕組み。その後も温度に細心の注意を払いつつ、破砕、圧搾、発酵へと進んでいく。また、果汁の移動はポンプを使わず、フォークリフトで容器を持ち上げて重力で果汁を落とすやり方、いわゆるグラヴィティ・フローだ。できるだけブドウや果汁に負担をかけたくないという気持ちが伝わってくる。
ワイナリーは4つの部屋を仕切って、それぞれ温度を変えている。熟成庫には特にこだわっている。壁伝いに設置されたパイプに不凍液を流して、温度を調整する。また、暑さ対策として建物の壁と天井に分厚い断熱材を入れることで、青果市場と同じレベルの高い断熱効果を得ている。エアコンを使わないこのやり方なら、コルクが乾燥することはない。熟成庫はヨーロッパの地下カーヴのように非常に涼しい。パイプを流れる水の温度を変えることで冷える。風もないし、振動もない。電気代も安いのでいいことずくめなのだそうだ。
至福のテイスティング
いよいよお楽しみのテイスティング!
ワイナリーで使っているブドウは、この越前浜にある自社畑、信濃川流域の契約農家の畑、北海道からの買い付けブドウの3種類だ。今回は、自社畑のアルバリーニョ、信濃川流域の畑のシャルドネ、北海道余市のケルナーなど、計10種類をテイスティングした。アルバリーニョの比較試飲を少しご紹介する。
①El Mar 2017(エルマール 2017)
ワイナリー前の自社畑のアルバリーニョ。ノンバリックでスタンダードなスタイル。グレープフルーツ、オレンジピール、濡れた石。ケイ素やカリウムを含む砂質土壌からくる金属的、ガラスのようなミネラル感。爽やかな酸味。アルコール度数は12.5%。ちなみに「エルマール」とはスペイン語で「海」のこと。
②El Mar Maceracion 2017(エルマール マセラシオン 2017)
①と同じ、自社畑のアルバリーニョ。ブドウの半分は圧搾して果汁のみ残す。残りの半分は破砕後、果皮とともに醸してから両方をブレンドし、野生酵母で発酵させている。熟成には古樽を使っている。中程度の黄金色。ヴァニラ、スパイシーな白コショウ、ナッティーな香り。非常に香り豊かだが、酸味が高く、すっきりしているので樽由来の香りがくどいことはない。これならどんな料理にも合いそうだ。
③Albarino Pasificado 2016(アルバリーニョ パシフィカード 2016)
アルバリーニョのパッシートは初めて! ブドウは60%を干して、残りの40%は普通の状態で使う。ブドウは、ビニールハウス内に設置した葦簀(よしず)の上に並べて干すのだそうだ。均一に乾燥するように、ブドウを並べては裏返す作業を分担して行う。手間暇を惜しまず、丁寧な作業を繰り返す。ビニールハウスの中は非常に高温になるため「ブドウが干される前に人間が干されてしまう(笑)」と本多さん。
ブドウは干すと取れる果汁が少なくなるので、一樽のみ生産する貴重なワインになる。中程度のイエロー。新樽を使っているにもかかわらず、プライマリーの果実風味がはっきりと感じ取れる。爽やかでフレッシュなマスカット、ヴァニラ。オフドライで酸味は中程度。ややとろみを感じるテクスチャー。う~ん! このアルバリーニョは美味いぞ!!
④Pinot Noir 2016(ピノ・ノワール 2016)
そしてサプライズはリリース前のピノ・ノワール。これがファースト・ヴィンテージなので、ラベルはまだない。2013年に植えて4年目に収穫したブドウから造られている。
ピノ・ノワールの栽培は難しく、昨年と今年は実がつかなったそうだ。そんな貴重なキュヴェをアルマン・ルソーの古樽、フランソワ・フレール社の新樽を使って二樽だけ造ったと聞くと、飲んでもいないのに唸ってしまう(笑)。官能的な香りが素晴らしい。赤い果実、ラズベリー、イチゴ。スパイシー、ほんのり焦がした木の香りが鼻の奥をくすぐる。酸味はやや高い。タンニンは思ったよりしっかり感じられる。これはリリースしたらぜひ買ってみたい1本。
このほか、野生酵母で発酵した信濃川流域産のメルロー、自社畑のエレガントなカベルネ・フラン、北海道のケルナーを使った微発泡の白、そしてカベルネ・ドルサとカベルネ・ミトスのブレンドなど、いずれも個性的で興味深いワインだった。
本多さんは終始、クールに淡々と語るのだが、それでもブドウやワイン造りに対する「熱い想い」がビシビシ伝わってくるから不思議だ。
「元々、新潟の出身なので地元でやりたいと思った。新潟はリアス・バイシャスに似ているので、ブドウを作ってみる価値があると思った。やってみないとわからない。やってないのと、できないのとは違う」
この10月30日に、国税庁の「果実酒等の製法品質表示基準」が施行されることも日本ワイン普及の追い風になると思うのだが、「日本ワインをもっと多くの人に飲んでもらうには何が必要か?」と問いかけると・・・。
「これからは、感度のいい若者をターゲットにしていきたい。若者にとって、日本ワインはトレンドのひとつであり、若者が手を出せるようなワインの位置づけが大事。価格の面でも」とのことだった。今後の新たな試みもこっそり教えてくれたが、ここではまだ秘密にしておこう(笑)
やっぱり神様とワイン
最後に余談だが、新潟ワインコーストから車で30分ほどのところに弥彦温泉がある。弥彦は越後の国開拓の祖で、天照大神のひ孫にあたる「天香山命(あめのかごやまのみこと)」が祀られている弥彦神社を背後にいただく門前町。神社は創建から約2,400年以上といわれる由緒あるお社で、ただならぬご神気がみなぎっている。心癒される実にいい雰囲気だ。ぜひ、こちらにも足を伸ばすといいだろう。
弥彦へは、上越新幹線燕三条駅から弥彦線に乗り換えて約30分。終点の弥彦駅までは2両編成のローカル線の旅だ。1時間に1本程度しか電車が来ない。これがまたいいのだ!
新潟は、私のようにワインが好きで、神社巡りも好きで、ローカル線も好きな人には、まさにオススメの場所だ。新潟ワインコーストにはフェルミエと、この地のパイオニアであるカーヴ・ドッチ・ワイナリーを含めて5軒のワイナリーがあって、そのすべてが徒歩圏内。各ワイナリーを試飲して歩くのも贅沢なひとときだ。
造り手の魂のこもった“海のアルバリーニョ”。ぜひ一度、お試しあれ!