塩尻ワインの歴史
塩尻でのぶどう栽培やワイン生産は古く、明治23年(1890年)に豊島理喜治氏が、桔梗ヶ原に約1haのアメリカ系ぶどうの「コンコード」「ナイヤガラ」などおよそ3000本の苗を試植したことから始まる。当時の桔梗が原は「不毛の地」と書物に記されるほどの荒れ地だったことや、冬期は零下10度以下まで冷えることから強いアメリカ系葡萄品種が選ばれた。明治30年(1897年)には、栽培面積が5haに増加し、翌年には県内で初めてのワインが醸造された。これが県内のブドウ酒づくりの始まりだと言われている。まもなく小泉八百蔵氏や林五一氏が桔梗ヶ原に入植し、本格的なブドウ栽培が始まった。
大正9年(1920年)の戦後恐慌では、生糸の相場が暴落して、いくつもの製糸家が廃業へと追い込まれ、そのあおりを受けて桔梗ヶ原でも、多くの農家がそれまで盛んだった養蚕を止めて桑からぶどうへ移行したという。さらに昭和に入ってから、金融恐慌で致命的ともいえる打撃を受けた製糸業に見切りをつけた者も少なくはなかった。
戦前から戦後にかけては当時、日本で大流行していた「甘味ぶどう酒」の製造元である寿屋(現在のサントリー)と大黒葡萄酒(現在のメルシャン)が豊富な原料を求めて桔梗ヶ原に進出。本格的なワインの醸造が始まり、ブドウ酒はいつしかワインと呼ばれ広く親しまれていく。2つの工場を相次いで誘致したのは、加工用ブドウの買い取り値を競わせるためであり、農家も競って品質の良いブドウをつくったという。
1960年代半ば頃には日本で初めてワインブームが起こり、桔梗ヶ原では、この頃からメルローの栽培地として、本格的な栽培に取り組むようになる。1980年代以降の温暖化傾向により寒害が減少し、また技術革新等の発達に伴い、現在では安定した経営が行われるようになっている。
本格的なワインのニーズも高まり、赤ワインにはメルローやマスカット・ベーリーAなどによる醸造も盛んとなった。なかでもメルローから醸造された赤ワインは、本場欧州においても高い評価を受けている。白ワインでは、シャルドネやケルナー等、白ワインとして評価される品種も栽培され、多くのプレミアムワインを産出。
現在、塩尻市内で(※1)は12社のワイナリーと1高校によりワインの醸造が行われ、国内外におけるワインコンクールでの入賞や、長野県原産地呼称管理制度においても多くの塩尻産ワインが認定を受けるなど、塩尻はワイン銘醸地として知られるようになった。
※1;2018年9月に、『シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー』と、『Belly Beads Winery』の2社が長野県塩尻市のワイナリーとして加わった。
ブドウ生産とワイン産業振興に力を入れている塩尻市
塩尻市には300haのブドウ畑があり、その内270haほどが醸造用である。塩尻市では、6年ほど前から農業全体の後継者不足が課題となっていた。かつて全体で400haあったブドウ畑をこれ以上減らしてはならないと、塩尻市役所の農政課は6年前に果樹産地保全支援員を雇用すると決めた。この支援員は、農家を訪問して聞き取りを行う。高齢で畑を続けられないという農家にあと何年できるのか確認し、反対にブドウ栽培をしたくて畑を探していると農政課に相談に来る人とのマッチングをしてきた。その結果、いくつかのマッチングが成功し、ワイン用ブドウ畑が300haぐらいまで戻る可能性がでてきた。塩尻市での加工用ブドウの年間収穫量は約2775トン(2017年)であり、ブドウ産地である長野県でも上位の収穫量を誇る。
Miss Wine
驚くことなかれ。ワインの世界にもミスコンはある。ミス・ワインの使命は、多くの人にワインの魅力を伝え、文化・産業振興そして地域活性化に貢献すること。ミス・ワインに選ばれると、アンバサダーとしてワインの魅力をひとりでも多くの方へ届けるべく、その後の1年間各種のワインイベントに参加して業界を盛り上げる活動をする。塩尻市はミスワイン日本大会の特別スポンサーとなり、2017年と2018年の大会は塩尻市のレザンホール(塩尻市文化会館)で開催。2017年のミス・ワイン日本大会では福岡代表 済木南希(さいき なつき)がグランプリに輝いた。今年は2018年7月27日、地方大会と本部選考を通過した女性15人が美しさと知性を競い、群馬県の柴田美里さん(24)がグランプリに選ばれた。
塩尻ワイン大学
塩尻市のワイン産地維持と地域ブランド強化、ワイン産業全体の活性化のために塩尻市が2014年に開講した塩尻ワイン大学。日本ワインを牽引する人材育成を目的にしており、醸造用ブドウの栽培やワイナリー設立を目指す者が通っている。栽培技術・醸造技術・経営手法などを習得する機会を提供し、3年間かけて第一線で活躍する講師陣での講義と実習を行っている。既に卒業した第一期生には2018年3月、「塩尻市ブドウ栽培・ワイン醸造マイスター(Shiojiri City Certified Viticulture and Wine making Meister)」(略称SCVWM)の認定証が授与された。塩尻市には県内外の市町村から視察の申し込みもあり、他の街でも塩尻ワイン大学と類似する事業が始まっている。ブドウ栽培・ワイン醸造技術士(VW)の輪が、全国に広がりそうな気配。次々と新しい取り組みをする塩尻市から今後も目が離せない。