普段は入れない場所にて、貴重な経験をする
令和元年8月25日、塩尻ワイン大学の講義でぶどう生産者の百瀬氏の圃場に入らせていただく機会があった。
百瀬氏は現在、五一わいん生産者組合で組合長を務められており、秀逸な塩尻ワインの源であるぶどう栽培をけん引するスーパースターである。
地元の実力者である百瀬氏自らがご本人の圃場に立ち、貴重なお話をしていただけるとあって、同期の学生たちも神妙な面持ちで耳を傾け、熱く質問する者もあった。
百瀬明氏の経歴と役職
昭和42年 信州大学農学部卒 果樹園芸学専攻
平成13年~20年 長野県原産地呼称制度 委員
平成28年~30年 塩尻市加工ぶどう生産者組合連合会 会長
平成15年~現在 五一わいん生産者組合 組合長
経営内容 ぶどう専業
ハウス3月加温 30a シャインマスカット 巨峰 ナイヤガラ
無加温 10a シャインマスカット クイーンルージュ ナガノパープル
露地 生食 50a シャインマスカット 巨峰 シナノスマイル サニー他
加工ぶどう 80a 竜眼 甲州 メルロー ベリーA ヤマブドウ
合計 170a
驚くことに、これだけのぶどうを人材の雇用無しで育てているそうだ。労働力としては、ご本人と息子さん夫妻とで担っているという。
百瀬氏の経営理念
ぶどう栽培に関わって50年以上という、長い経験のある大先輩、もはや職人技を備えたプロフェッショナルエキスパートの百瀬氏の経営理念を教えていただいた。
経営理念
• ぶどうの樹に教わりながら考える
• 先人の知恵は有効に使わせていただく
• 迷信技術に惑わされないように
そのうえで、高品質・多収・省力を目指されているとのこと。
長年の経験があっても、ぶどうの樹と対話しながら日々、より良い方法で栽培管理をされていると聞き、葡萄栽培の難しさを垣間見る思いであった。
以下、百瀬氏により、ぶどう栽培に携わる後進のために公開の許可をいただいたのでご本人が経験を踏まえた、ぶどう栽培技術についてまとめたものを記述する。
自然系
樹冠拡大が早く樹勢の調節が可能
全品種対応できる
甲州 竜眼には最適
剪定には経験と技術が必要
直線形(短梢 平棚)
受光体制は自然系とほぼ同じ
生産力もほぼ同じ
花持ちの悪い品種、花ぶるいする品種は難しい
新梢の伸びが止まらない場合が多くなる(手間がかかる)
技術の習得は比較的簡単
垣根栽培
技術は極めて簡単
土地有効利用率は低い
新梢が立っているので伸びる作用が強く養分の蓄積には不向き
作業は中腰が多くなる
炎天下での作業
平棚と10度以上の差
収量は低い
最後に、ワイン品質に差があるのかどうかだが、メルシャンの国際コンクールでのメルロー大金賞(平成3年)は、平棚自然系から採れたぶどうであること、ここ最近の国際コンクールでの甲州の入賞品も自然系であり、山梨県の試験場では樹形による差は認められないとしていると学んだ。
強いて言うなら、ぶどう生産者と醸造家たちの強力な信頼関係と情熱の差かもしれない。