ぶどうの木は「ハイブリッド」なのです
ワイン用のぶどうの木のほとんどが「接ぎ木」されています。
ぱっと見では分かりませんが、実は根の部分(台木/rootstock)は北米原産の品種、上の部分(穂木/scion)はカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ等のヨーロッパ系品種でできているのです。
その理由は、19世紀後半に「フィロキセラ」という根につくアブラムシの被害が広まった際、北米原産種はフィロキセラに耐性があることが発見されたため。以来、接ぎ木という方法が一般的になりました。現在ではさまざまな交配が行われ、フィロキセラへの耐性だけでなく、根の張り方の違いや、好む土壌の違い、乾燥への耐性等、植える環境や土壌を考慮した上で畑に合った特性を持つ台木が選ばれています。
穂木も同様で、同じ品種(カベルネ・ソーヴィニョンやシャルドネ等)でも、ブドウの粒の大きさや皮の厚さ、香りやフレーバー違いなどがあり、作りたいワインのスタイルに合わせて選ばれるようです。
台木と穂木の検査・選定までワイナリーで行うのは大変。苗木業者からは検査、検品が行われたものが手に入るので、ワイナリーは安心して使用できるのです。それでも100%安心できるわけではありませんが……。
苗木業者からは、接ぎ木済みの苗だけでなく、台木のみ、穂木のみでも購入できます。接ぎ木済みのものはそのまま植えれば選んだ品種が育ちます。台木のみ購入した場合は、はじめに台木を畑に植え、1年後に穂木のつぼみを移植します。
畑にぶどうの木がやって来るまで
それでは、以前わたしが訪れたナースリー(苗木業者)の接ぎ木済み苗の検品の様子をご紹介しましょう。
収穫された苗木たちは根も枝も思い思いに伸びています。出荷するにあたり、根を短くカット。穂木の枝は一本のみ、5cm程度を残しすべて取り除かれます。
ベルトコンベアに一本一本乗せられ、きちんと成長しているか、台木と穂木がきちんとつながっているか、根はしっかり張っているか等がチェックされます。
根の張り方が悪いものは、植えた後うまく成長しない可能性があるので、全方向から根が出て、しっかりと張っているものが選ばれます。
ひとかたまりのロットの作業が終わると、いったん掃除してからでなければ次のロットを受け入れられません。苗木は見た目がほぼ一緒なので、品種が混じってしまったら大変なのです。収穫の時期になって、ピノ・ノワールの畑の中に白ぶどうがなっている…なんてことにもなりかねません。
検品作業は人の手で行われるので、どれだけ人を教育するかも大切です。「これくらい大丈夫だろう…」で、品質の悪いものを出荷すれば、苗木業者は信用を失ってしまいます。
作業は朝7時から午後3時まで。寒い寒い倉庫の中で、休憩をはさみながらではありますが、立ちっぱなしで作業を行います。苗についている土で、手はもちろんですが、靴も服もどろっどろに。そんな大変な仕事を経て、ぶどうの苗木が畑へと届けられているのです。
裏側を知れば知るほど「たくさんの人の力があって、おいしいワインができあがっているんだ」ということを実感します。ワイン造りは収穫のずっとずっと前にスタートしているのです。