スピードとクオリティが求められる、剪定の作業
ぶどう畑で作業をはじめてみると、ビックリ! これまで大学の授業中に何度もぶどうの木の剪定をしていたので、ある程度自信があった私ですが「授業と同じスピードでやっていては、到底終わらない!」と本気で、仕事として行う剪定の大変さをすぐに実感したのです…。
やみくもに枝を切るわけにはいきません。
つぼみの位置から茎や葉が伸びた状態を想像し、適度なスペースを作ったり、片側に実がなりすぎないよう配慮したりというのはもちろんのこと、生育状況が悪い木があれば、木への負担を和らげるために残すつぼみの数を減らすといったこともします。
全体を見て成長度合いを確認し、残すつぼみの位置を見定めながら同時に枝を切っていくのです。
また、ぶどうの木はあらゆる所から芽を出そうとするので、後から「サッカー」と呼ばれる不要な新梢がなるべく出ないよう、切り方にも気を遣います。
切った枝もそのままにしておくわけにはいきません。全てワイヤーから取り除いて、処理しやすいように地面にまとめます。
この枝をワイヤーから外す作業がまた大変! 蔓があっちにもこっちにもからみついているので一筋縄ではいかないのです。
切った枝を左手でつかみ、右腕でぎゅっと押し下げて外していきます。乾燥した樹皮や枝の切り口でひっかいて、私の腕は傷だらけに…。
バッサバッサと切る勢いで挑んだ私でしたが、初日は1日がかりで40本ほどしか終わりませんでした。
この畑は全て枝の硬いカベルネ・ソーヴィニヨン。
午後になるとだんだんハサミを持つ手から力が抜けていきます。もっと力があったらこの枝をバシっと切れるのに…と、くやしく思ったりもしました。
いまナパは雨期。天気のいい日に効率よく剪定を進め、予定通り終わらせないと…とちょっと焦っています。だって畑には約1500本ものぶどうの木が私を待っているんですから…。もちろん私が全部やるわけではないのですが、いまはたった一人で作業中なので、とてもプレッシャーを感じます…。
孤独な剪定作業のコワーカーたち
ひとりぼっちで、休憩するのも忘れて枝を切りまくっていた私に、つかの間の癒やしを与えてくれたのは、同僚のひつじたち。
ぶどう畑では、収穫が終わると、土に栄養を与えるために、地面に「カバークロップ」と呼ばれる下草を生やします。このカバークロップには、クローバー・麦・マスタード・大根などなど、さまざまな種類の植物が使用されます。畑の栄養状態や土地の傾向、オーナーの好みなどによって異なるそうです。このカバークロップをむしゃむしゃ食べて短く切るのが、ひつじたちの役目。下草は伸びた部分が食べられると根の一部が枯れ、それが分解されて土壌有機物となってぶどうの木の栄養となるのです。さらに、ひつじの尿や糞も肥料となります。友人はひつじのことを「栄養管理のスーパーバイザー」と呼んでいます。
このひつじたち、時々なぜか近くにやってきては、じぃっと私のことを見つめるのです。しゃがんで手を出してみるとさらに近付いてきて、頭をなでさせてくれます。気をよくして遊んでもらおうとしても、すぐにぷいっと違う方向を向いて草を食べ出し、懐いてはくれません…。気まぐれというかツンデレというか。でもおかげで一時ですが、癒されます。このクールな同僚とともに、私は今日もいそいそと畑で枝を切っています。
剪定という肉体労働の後は、ワインではなく、冷えたビールが最高! と思っているのは内緒です。