
ワイナリーのすぐ横を流れるこの川が重要なのでした
勝沼はなぜブドウ郷なのか
山梨県勝沼のワイナリーを拠点に、勝沼で栽培された「甲州」と「マスカット・ベーリーA」のみでワインを造るMGVs(マグヴィス)ワイナリーは、「塩山製作所」(えんざんせいさくじょ)という山梨県は塩山を拠点とする半導体の加工会社が2016年ヴィンテージのワインをもって、2017年に立ち上げたワイナリーだ。
という話は、昨年の8月に、ここ、WINE WHAT onlineに掲載しているのだけれど、そのMGVsワイナリーが、4月、初のスパークリングワイン「K537」をお披露目するとともに、土地について、ワインについて、より深く説明してくれた。
説明は、ワイナリーからではなく、鳥居焼とよばれる丘からスタートした。場所は中央自動車道の勝沼インターチェンジからはやや北、勝沼ぶどう郷駅からは南、高尾山の西といったところで
(Google Mapsで開きますhttps://goo.gl/maps/FFVjQo6UK6R2)
ここから、ワイナリーが密集する勝沼・塩山のエリアを一望できる。もちろんそのなかにはMGVsワイナリーもある。
鳥居焼から。画像中央の赤い屋根の建物が「シャンモリワイン」。その左を流れる川が日川で、日川を挟んで対岸のやや奥にみえる黒い建物がMGVsワイナリー
案内してくれた、MGVsワイナリーのオーナー 松坂浩志さんによれば、ここからの眺めで、注目すべきは、川。MGVsワイナリーのすぐ横を流れている日川(ひかわ)という川だ。日川は笛吹川の支流のひとつで、MGVsワイナリーのある標高330mの甲州市勝沼町等々力の約20km東、標高2,057mの大菩薩嶺(だいぼさつれい)から、大和を通り勝沼に入ると、ほとんど真っ直ぐに流れてくる。急流で、歴史的に氾濫を繰り返していた。特に、日川をふくむ、笛吹川流域で、大雨を契機におこった明治40年の大水害は有名で、この水害のあとにつくられた、「日川水制」とよばれる、水の流れをゆるやかにするための石垣のようなものは、現在も、このあたりのブドウ畑のなかで、一部、その姿がみえる。
MGVsワイナリーの裏手にも日川水制の石積みが顔を出している。御影石のT字の構造物で、水流を弱める
この頻発する氾濫が勝沼のブドウ栽培の基礎をつくった。
氾濫によってこの土地の表層にあった、肥沃な粘土質の土壌は削られ、その下にあった痩せた、そして水はけに優れる砂地の土壌がむき出しになったのだ。さらに、粘土質から流された栄養分がそこに入り込んだ。明治40年の大水害後は、粘土質の土壌が川の周囲から失われたことで、もともと栽培されていた桑の木は栽培不能になり、かわりに育てられたのが、ブドウ。川によって削られてくぼんだ土地の河原で栽培されるブドウは、非常に品質がよく、地元ではこれを「河原のブドウ」と呼ぶという。
河川によって削られた土地は、段丘をなし、川窪から転じて川久保という地名にもなっていて、現在も、勝沼には、川久保がつく地名が各所にのこる。
土壌とともに、松坂さんが注目しているのが、この川に沿って、笹子の方面から走る風だ。「風がないとブドウの香りがでない」という。MGVsワイナリーは、複数の畑のブドウを使うけれど、とりわけ重用しているのは、川沿いの、風が通る畑のブドウだ。
ブドウ栽培にあたっては、日照も重要な要素になる。長い日照時間にならず、夜間に気温が十分に下がる、寒暖差のある畑が好条件だという。山によって西日をさけられる地形、道路のそば、といったところが、気温が低下しやすく、条件がよい。
この話は、MGVsワイナリーに限らず、勝沼がなぜ、日本で最大のブドウの、そしてワインの産地なのかを説明し、海外のワインブドウ産地を訪れる際にも、参考になるようにおもわれる。
ちなみに、この鳥居焼周辺の畑のブドウは、ひょろりと細い。樹齢は30年程度が限界だという。「日本のブドウは、成長が早く、細く長く伸びる。フランスのように80cm程度で樹の成長を止めることは難しい」
この話が次に訪れた畑の話につながる。