Poshなスパークリングワインが出来ました
かくして、複雑な剪定、樹勢のコントロール、遅摘みなど、テクニックを駆使して高品質ブドウを追求するMGVsワイナリー。とはいえ、まだ2年目。工夫をこらした畑で育てられたブドウが収穫され、ワインとして真価を発揮するまでにはまだ数年を要する。これから先が楽しみなのである。
昨年は2016年ヴィンテージだけだったワインは、今年、当然ではあるけれど2017年ヴィンテージもくわわって、ラインナップが拡充した。さらに、タンク内二次発酵させたスパークリングワイン「K537」が登場した。
MGVsワイナリーでは、発泡ワインをPOSH(ポシュ)と呼びたい、という。はっぽうしゅのぽうしゅのところを、イギリスでは高級な、とか豪華な、という意味で使われるposhという単語にかけた呼称で、「カヴァとかフランチャコルタのような呼称にしたい」そうだ。
ちなみに、醸造所を見せてもらったら、瓶内二次発酵の白とロゼのポシュも造られていた。どうやらまだ実験段階で、製品は2020年の発売を予定しているそう。年間、1,000本程度の生産となるそうだから、poshなポシュになりそうだ。
そのポシュ第一弾のK537は、といえば、2015年と16年の甲州を使ったポシュ。ドザージュをしていない、エクストラ・ブリュット、つまり辛口だけれど、やさしい甘みがあって、また、酵母のものとはまたちがった、けれども香ばしい香りがある。
K131はワイナリーに隣接する畑で育てられる甲州で造る白ワイン。16年と17年の双方が試飲できた。いずれも遅摘みが特徴で、16年は10月16日、17年は10月27日に収穫したという。2017年のほうが、より酸がしっかりとして、軽快。少し海藻をおもわせるようなまろやかさ、ミネラル感がある。
B521はマスカット・ベーリーAの赤ワインを造る際に、果皮の割合を多くするために抜き取られる果汁、セニエを集めて造ったロゼ。マスカット・ベーリーA独特の、煮詰めたイチゴのような香りがほんのりと漂い、味わいは爽やか。なんとも食欲を掻き立てられる。冷やせば白ワインのようにも楽しめ、ロゼのバーサタリティを遺憾なく発揮してくれる気軽な一本で、筆者はオススメだ。
B153は昨年の7月末に登場している2016年ヴィンテージで、品種はマスカット・ベーリーA。下岩崎の「河原のブドウ」単一畑のMGVsワイナリーのフラッグシップ赤ワインだ。上述のセニエで濃縮して、ステンレスタンク発酵後、6カ月樽熟成。アメリカンオークだけでなく、フレンチオークも使っている。とはいえ、樽とマスカット・ベーリーAとがうまく調和しているのか、樽があまり目立つ印象はうけなかった。
実は筆者、昨年もこれを試飲させてもらっているのだけれど、あれ、こんなにおいしかったっけ? マスカット・ベーリーAらしい、ヴァニラのようなあまい香りがあって、トーストのような香ばしさも感じられる。酸味やタンニンなど、全体がよりまとまって、落ち着きがあり、深みが増したというのか、なんだか格が上がったように感じられたのだ。
全体としても、昨年はピカピカのあたらしいワイナリーという印象をうけたのだけれど、今回は、建物は昨年同様にピカピカなのに、ワインからは、若々しさだけではない、風格を感じた。半導体加工会社の経営者として、何年も先を見通して事業を進めることが常態の、オーナーの松坂さんのことだ。たぶん、こうなることは予想していたのだとおもう。これでまだ2年目。まだ、始まったばかり。おそらく、ずっと先のヴィジョンがあるはず。
と、時の流れに思いを馳せていたところで午前中が終わった。
訪問日は4月22日で日曜日だったのだけれど、朝8時頃に東京を出発しても、ここまで話してきたようなことは、午前中だけで終わったのだった。
ワイナリーには、週末ということもあってか、ワインを楽しみながらのんびりとすごしている人の姿もあった。東京と勝沼はそんなに遠くない。緑が豊かで、風と水と太陽に恵まれたところが、日本最大の都市の、すぐそこにあるのだ。