世界最長の4ドア・セダン
ボルドーとかブルゴーニュとか、こいつのリア・シートにドンと座ってワイナリー巡りをしたら、たぶんそこの当主が出てきますね。少なくともクルマを見るために(笑)。
世界のスーパー・ウルトラ富裕層向けにベントレーが開発した、ミュルザンヌの超ロングホイールベース版。手がけるのは、ベントレーの誇るビスポーク(オーダーメイド)部門のマリナーである。まことに由緒正しい、コーチビルディングの伝統を受け継ぐスーパー・ウルトラ・ラグジュアリー・カーなのである。
正式名称は、ベントレー・ミュルザンヌ・グランド・リムジン・バイ・マリナーという。由緒正しいので、たいへん長い。グランド・リムジンというのは、グランドなセダンという意味です。グランド・ホテルとかグランド・シアターとかのグランドです。大セダンです。そう名乗るにふさわしく、ホイールベースは普通のミュルザンヌより1mも長い。
普通のミュルザンヌというのは、現在のベントレーの看板モデルで、すべてが英国でクラフツマンシップ、職人魂でもってつくられている。ロールズ・ロイス時代からの伝統を引き継ぐ(「伝統を引き継ぐ」ばっかしであるが、伝統が大切なのはワインばかりではない)V8OHVエンジンを搭載し、熟練職人によるレザーとウッドで室内は仕立てられている。ということもあって、たいへん重い。車重2710kgもある。それを1020Nmという大トルクでもってエフォートレス(努力いらず)に悠々堂々と走らせる。
ベントレーの旗艦だけに、普通のミュルザンヌだってホイールベースは3266mmもある。全長ではない、前のタイヤの車軸から後ろのタイヤの車軸までの距離である。グランド・リムジンはそれより1mも長い。ホイールベース4266mmということになる。おたくのフォルクスワーゲン・ゴルフがすっぽり入っちゃう長さである。全長は6575mmあることになる。自動車メーカーがつくる4ドア・セダンとしては、おそらく世界最長の1台であろう。
お手本はプライヴェート・ジェット
おまけに、ルーフは普通のミュルザンヌより79mmも高い。昔、結婚式のときに文金高島田の花嫁さんが乗り降りしやすいようにハイルーフのクラウンがあったけれど、それはともかくとして、大セダンのリア・キャビンは花嫁用クラウンよりはるかに広いはずだ。内装のお手本はプライヴェート・ジェットで、シート配置は対面式、移動中にじっくりビジネス・ミーティングができる。まずは冷やしたドン・ペリニヨンでカンパイ! といきたいものです。もちろんグラスを入れる棚も冷蔵庫も備え付けられる。
普通のセダンのホールベースを引き延ばす手法は、昔から町のコーチビルダーがよくやっていることで、ストレッチ・リムジンという。映画「プリティ・ウーマン」とか「ダイハード」とかに出てきた。ベントレーはそれを社内で一品生産した。それもこれも、現代にコーチビルディング、馬車づくりの伝統を引き継ぐマリナーがあればこそである。
マリナーは、お客さまの夢想を現実化する。いかなる要望もベントレー流のテイストで仕上げてみせる。できないことはない。
革新技術にも触れておこう。運転席と後席の間を仕切るパーティション・ガラスに、「エレクトロクロミック」あるいは「スマート・グラス」と呼ばれる電気仕掛けのガラスが用いられているのだ。いい感じになったら、スイッチひとつで、透明ガラスは色が濃くなってプライヴァシーを守ります。
価格は未発表ながら、ビスポークなので天井知らずといえる。ちなみに普通のミュルザンヌで3500万円。それより高いことは間違いない。