香りが味覚に強く影響することは、広く知られている。ストロベリー味の子供用歯磨きは、いちご果汁が入っているわけではない。それでも私たちがストロベリー味と認識するのは、まさに香りが味の決め手になっているからだ。
最近の研究によると、私たちが感じている「味」のなんと80%が、香りで決まるのだという(参照:最新脳科学でわかった五感の脅威(ローレンス D・ローゼンブラム著 講談社)。味覚を左右しているのは、喉の奥から鼻に抜ける「レトロザイル」と呼ばれる香り。ワインの場合も同じ。ソムリエのようにグラスを回して鼻を近づけなくても、飲んだ時に喉の奥から上がってきた空気が鼻に入ることで、私たちはワインの香りを感じている。そして、その香りがワインの味を大きく左右しているのだ。
だからこそ、ワインを語る場合に香りの表現は欠かせない。一流のソムリエたちが、香りを嗅いだだけで、ブドウ品種や産地をかなりの確率で当ててしまえるのも、香りが味わいに重要な役割を果たしている証しだろう。
ところで、タイトルの質問、あなたは答えがわかるだろうか? こんな時にズバリ答えられたら、かっこいいよなと私のようなワイン半可通は思ってしまうのだが、実はこれ専門家にとっては、あまり難しい問題ではないのだそうだ。ライチの香りがするワインとして、有名なブドウ品種があるそうで、ライチの香りを感じたら、その名前を出せばほぼ間違いないのだそうだ。
それは、フランス・アルザスで最も多く栽培される「ゲヴュルツトラミネール」。何人かのソムリエやワインエキスパートの方などに、香りの質問をしたことがあるのだが、クローブの香りのするワインは?と聞くと、「いくつかの良質のボルドーとブルゴーニュワイン」などとざっくり答えるのだが、ライチの香りと聞いたときだけは、みな「ゲヴュルツトラミネール」と言い切る。
これを知った私は、ライチの香りのワインを言い当てるチャンスを心待ちにしていた。ところが、そのチャンスが来たとき、私は言い当てることができなかった。私は、なんとライチの香りに気づくことができなかったのである。
ワインの香りは複雑だ。一つの香りだけがするわけではなく、さまざまな香りが感じられるのが普通だ。開けてすぐの香りと、空気によく触れさせてからの香りは違うし、後に残る余韻も違う。そんな香りの中から、これは、ライチの香りがすると嗅ぎ分けること自体が、実は素人には難しい。そもそも、ライチの香りってどんな香りだっけ、というところから、私の鼻は怪しかったのだ。
だから、ソムリエたちは、普段から鼻をトレーニングしているのだそうだ。2013年の世界最優秀ソムリエの栄誉に輝いたパオロ・バッソ氏が、今でもトレーニングに使っているというのが、「Le Nez du Vin(ルネ・デュヴァン)」。ワインの基本となる香り54種類を、香水のように瓶に入れて、いつでも香りを実体験できるようになっているキットだ。
もちろんワインの香りは、もっとたくさんの種類があるのだが、この54種類が基本となる。つまりは、この54種類の香りが嗅ぎ分けることができるようになれば、私たちでもある程度ワインのことを語れるようになると言える。
香りやテイスティングについて解説しているテキストや、54種類の香りについてのインデックスカードなどもセットになっていて、とても勉強になる。フランスの著名なワイン鑑定家ジャン・ルノワール氏の研究チームが時間をかけて絞り込み、完成させたというこのキットは、先人たちが長年かかって身につけてきたはずのワインの知識のポイントを、シンプルに、分かりやすく私たちに教えてくれる優れものだ。世界80か国で販売されているという、まさにグローバルスタンダードのトレーニングキットだと言える。
この冬、その「Le Nez du Vin(ルネ・デュヴァン)」の公式日本語版が、ついに発売された。しかも、以前の輸入版よりも、実は価格は約半額。かなりお求めやすくなっている。ワインホワット編集部でも、スタッフのトレーニングに一台購入しようかと編集長に相談中。
ソムリエまでは目指していないという皆さんでも、ワインをもっと知りたいと思うなら、購入してみてはいかがだろう。4万8000円は少し高くも感じるが、香りは劣化することなく10年持つというし、ワイン仲間と共同で購入すれば、リーズナブルな金額で手に入れられる。54種類の香りを知るだけで、ワインがもっともっと面白くなるのだから。
お問い合わせ・ご購入は、アルコトレードトラストへ
http://www.lenez.jp/
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