カベルネ・ソーヴィニヨンなう座談会
チリ、フランス、アメリカ、そしてイタリア、各地域代表が最新事情を語り合う

左から、イタリア代表 カンティーナ・ボルツァーノ サンタ・マッダレーナ カベルネ レゼルヴァ ムメルテル2013 4,200円
チリ代表 ヴィーニャ・エラスリス カベルネ・ソーヴィニヨン・アコンカグア・アルト2014 3,700円
USA代表 マサイアソン・ファミリー・ヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン2012 8,800円
そしてフランス・ボルドー代表 シャトー・ド・ペズ サンテステフ2011 7,000円
ブラインドで試飲したらナパってわからない
では、みなさんがお持ちにくださったワインを試飲しながら、話を進めていきましょう。
- 大岩
- ナパのマサイアソンってアルコールが13.2%しかないんですか? 脱アルコールとかしてませんよね。
- 武村
- してません(笑)。早めにブドウを摘んだり、キャノピーマネジメントをして、糖度が過度に上がるのを抑えています。
- 本間
- ほんとこれ、ブラインドで試飲したらナパってわかりませんね。
- 大岩
- 本間さんのボルツァーノはカベルネが100%ですか?
- 本間
- 100%です。ただアルト・アディジェの場合、ラベルにも「カベルネ」としか表記しないんですが、あまりカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランを区別しないので、おそらくカベルネ・ソーヴィニヨンにカベルネ・フランが混ざっていると思います。ところで、エラスリスのこのワインは、標高の高いところなんですか?
- 本山
- はい、600メートルあります。丘陵地帯の緩斜面ですね。
- 大岩
- やはりミントの香りが。
- 本山
- 出ますね。
- 大岩
- チリのカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴ですね。
- 本山
- これもカベルネ・フランが7%、それにプティ・ヴェルドが3%含まれています。
- 本間
- 大岩さんが持ってこられたペズ、いいですね。
- 大岩
- これ今日の午後1時に抜栓したんですけど(注・座談会は3時に開始)、その時は閉じまくってて、どうしようと思ったんですよ。今はちょうどいいところにあると思います。果実味とタンニンの満足感があって、そんなに渋みを感じない。新しい世代の飲み手が育っていくと、20年、30年後、感動の基準も変わってくるんだろうなと思いますね。
- 武村
- ナパが原点回帰したかと思えば、ボルドーは新世界寄りにシフトしてるんですね。
- 大岩
- フランス料理の世界がそうでしょ。フランス人のシェフって、今はクラシックな料理なんて作らないじゃないですか。
- 一同
- たしかに。
熟成ポテンシャルは、クラシックなボルドーと変わらないんですか?
- 大岩
- まだ答えが出ていないんですよね。結局、こういうスタイルになってまだ20年ほどじゃないですか? 20年後の姿を試飲して官能チェックした人がいないので、わからないんですよ。現地では9割以上の人が、熟成ポテンシャルはさらにあるといいます。果実味と酸とタンニンがうまくバランスをとった状態で、飲み頃がずっと続く、という見解をとる人が多いですね。

武村嘉彦
ワイン・イン・スタイル ブランド・ディレクター
神奈川県生まれニューヨーク育ち。
2000年にコーネル大学ホテル経営学部を卒業後、
ニューヨークの「Tribeca Grill」にてヘッド・ソムリエとして勤務。
05年、3000種類以上のセレクションを誇る「Vertas」のチーフ・ソムリエに抜擢される。
帰国後、輸入元「ワイン・イン・スタイル」に入社。
対してカリフォルニアは何年くらいの熟成を目指して、こういうスタイルに仕上げてきたのでしょう?
- 武村
- とくに何年とは考えていないと思いますが、10年を経ればうまく熟成できたという、ひとつの目安ですよね。80年代のモンダヴィ・リザーヴには今でも健全なワインがたくさんあって、30年の熟成に耐えられれば、これはもう素晴らしいワインといえるのではないでしょうか。このマサイアソンについていえば、若いうちに飲んでしまう人にもアピールするように造られていますし、酸味が多い分、今までのカリフォルニアワインとは違うと感じられると思います。
- 大岩
- コテコテのナパのカベルネに親しんできた人には違和感があるかもね。
- 本間
- でも妖艶な香りが感じられて、よいワインだと思いますよ。
- 大岩
- ひょっとしたらペズよりも酸が高いんじゃないかな?
- 武村
- 総酸度6.28グラムですね。ナパの場合、山の上では酸があり、平たい谷間では酸が乏しいとされていますが、ここはほとんどが平地の畑なのに酸があるんですね。
先ほどパーカーポイントの話がありましたが、このボルツァーノも+の高評価。でも果実味たっぷりでボリュームの大きな、いわゆるパーカースタイルとは全然違いますよね。イタリアは評者がパーカー自身じゃないからかな?
- 本間
- 国内の評価だと、ここはラグレインがいつも『ガンベロロッソ』のトレビッキエーリ(グラス3つの最高評価)を取っています。カベルネは海外のほうが評価高いんですよ。
サンテステフってタンニンがもっとゴツゴツしたイメージですが、このペズはそうした感じがありませんね。
- 大岩
- そうですね。メルローが46%混ざってるということも一因ですが、先ほどから言っているように、ブドウの熟度もあると思います。もともとサンテステフはメドックでも北の方だし、丘が少し高いので涼しく、硬いタンニンになりやすいんですが。収穫から5年経って、丸みも出てきたんでしょうね。
- 本山
- 新樽を40%も使ってる感じがしません。樽の焼き具合も変わってきているんですか?
- 大岩
- おそらく以前よりライトな焼き方になってきてると思います。
どうなんでしょう? カベルネ・ソーヴィニヨンって、今は他の品種、たとえばピノ・ノワールに押され気味では?
- 大岩
- フランスだとボルドー対ブルゴーニュという構図になりますけど、現在はむしろボルドー優勢ですね。ボルドーは09年、10年で価格が一気に上がり、その後からブルゴーニュも追随して値を上げました。ところが、霜や雹の影響で収量が減り、今ブルゴーニュの高騰ぶりがすごい。それに対してボルドーの値段が落ち着いてきたので、買い得感が出てきたようです。
- 本間
- ボルドー回帰の傾向は私も感じています。ACブルゴーニュですら4000円や5000円する中で、ボルドーのプチシャトーなら2000円から3000円で優れたものがたくさんありますから。
カリフォルニアはやっぱりカベルネが強いでしょうね。
- 武村
- 強いですね。もともとヴァラエタル(品種表示)で成功した歴史があるので、ブレンドしたものよりもよく売れます。品種でいうと、映画「サイドウェイ」後 にピノ・ノワール・ブームがありましたが、カリフォルニアではカベルネがキングですね。ただ問題は、ナパだとカベルネがブランド化してしまったので、今1万円以下で売れる上質のカベルネが少なくなってしまいました。
- 大岩
- するとこのマサイアソンはお値打ちなんですね。
- 武村
- 戦略的価格をつけてます。
- 本山
- 4本並べてみると、共通のトレンドが見えて面白い。すべてきれいに酸を残してますよね。
- 一同
- ほんと、ほんと。

先ほど価格の話が出てきましたが、1000円を切るワインが市場を席巻している中で、3000円をはるかに超えるチリワインって売りづらくないですか?
- 本山
- はっきり言って売りづらいです(苦笑)。
- 大岩
- エラスリスってチリワインにしては業務用の比率がすごく高くないですか? 街場のグラスワインでよく見るんですよね。たしかに3000円以上のチリワインというとびっくりしますが、この品質のワインが3000円台というのはやはりお値打ちだと思います。
- 本山
- はい、認証は取っていませんが、除草剤も防黴剤も使ってません。生育期間にほとんど雨が降らないので、防除の必要がまったくないんです。
武村さんのところのエミリアーナは認証取ってますよね?
- 武村
- はい、一部上のレンジのものになるとビオディナミの認証も取得済みです。
そうしたところもチリの売りですね。
- 本山
- がんばります。
本間さん、地品種回帰というイタリアの流れの中でアルト・アディジェのカベルネはどうですか?
- 本間
- かえって指名買いをいただくことが多いんですよ。というのも、絶対的な量が少ない。希少性に加えて、なぜか毎年パーカー・ポイントで90点以上獲得している。それにイタリアらしからぬ「クール・ビューティ」なスタイルが受けているのでしょうね。それからイタリアのカベルネというと、トスカーナの海沿いの1万円以上のものか、シチリアの日常タイプしか目ぼしいものがない中で、その隙間を埋めるアイテムがきわめて少ないんです。その点、このワインはうまい空隙を突いているんですね。
イタリアンのレストランでもカベルネの引きは強いんですか?
- 本間
- 強いですね。結局、地品種回帰といえどもサンジョヴェーゼはわかりやすいんですが、ネッビオーロになるとわかりにくい。バローロなんて飲み込まないとその良さが理解できないワインですから、よく知られたカベルネのほうがじつは売りやすいですよね。
今回、皆さんがお持ちになられたワインの中で、ご自身のワイン以外で印象に残ったのは?
- 大岩
- ぼくはやっぱりナパですね。口に入れた時に酸味ありきというカリフォルニアワインは初めてで、驚きでした。
- 本山
- 私もそうです。酸とタンニンのバランスのよさから、今後どういう熟成をするのか楽しみなワインです。
- 本間
- 一番おいしいと思うのは、悔しいけれどボルドーのペズですね。ただ異質で個性的なのはナパのマサイアソン。僕の知ってるナパとは全然違うものでした。
- 武村
- 私もペズが、香り的にも味わい的にも素晴らしいと思いました。ただ、私が持ってきたワインもそうなんですが、値段を見れば当たり前かなと思っちゃうんですよね。コストと品質を秤にかけると、エラスリスがよくできてると思いました。
どれも今のトレンドを明確に映したカベルネ・ソーヴィニヨンでした。今日はありがとうございました。
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