果実味中心に変わってきた!
まずは本家本元のボルドーから、現在の傾向について教えてください。
- 大岩
- 1998年頃からですかね。柔らかく、ブドウの果実味中心のスタイルに変わって来たのは。とくに2009年や10年など、グレートヴィンテージといわれる年でさえ、開けてすぐに楽しめるスタイルになってきました。昔なら20年寝かせてから飲みなさいといわれるところですよね。
それは醸造法の変化からですか? それとも環境的な変化の影響ですか?
- 大岩
- 醸造法ですね。昔より小まめに収穫、仕込みをするようになったことが大きい。現在は糖度だけでなく、生理学的な熟度を見極めたうえで摘むことが常識になっています。生理学的な熟度というのは種子や果皮、梗の成熟で、たとえば種子がまだ緑色をしたカベルネ・ソーヴィニヨンを醸造すると、タンニンが固く、若いうちは飲みづらいワインになりがちです。昔はタンクの容量が大きく数が少なかったので、ある程度の熟度を見たら、エイヤッと摘み取るしかありませんでした。だから、ひとつのタンクに熟度の異なるブドウが混じっていたわけです。
現代のように小型のタンクをたくさん用意すればいいわけですね。
- 大岩
- そうです。そうすれば、すべての区画を適切な時期に収穫し、区画ごとに醸造することができます。それでタンニンの丸い、若いうちから飲めるカベルネ・ソーヴィニヨンが造れるようになりました。
トップのシャトーでは、ブレンドに占めるカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が上がって来ましたね。
- 大岩
- シャトー・マルゴーでも13年94%、14年90%を超えてきますからね。ガチガチではない、エレガントなカベルネ・ソーヴィニヨンが出来るようになったからでしょう。かつてお向かいのピション・バロンに対してメルローの比率の高いのが売りだったピション・ラランドも、15年68%とカベルネ・ソーヴィニヨンを増やしています。
チリはどうでしょう? 90年代末に日本でも一世を風靡した「チリカベ」ですが、それからだいぶ変化したようですね。
- 本山
- そうですね。弊社が扱っているエラスリスに限らず、最近はピノ・ノワール、シラー、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネなど、 どちらかというと冷涼な気候向きの品種に関心が高まっています。でも依然として、チリではカベルネ・ソーヴィニヨンの人気は高いですね。ただそのカベルネ・ソーヴィニヨンにも変化が生じてて、オーストラリアもそうですけど、単に濃さを追い求めるのではなく、エレガンスを追求するワイナリーが増えてきていると思います。
昔はカベルネ・ソーヴィニヨンもシャルドネも同じ場所に植えてましたが、それぞれ適地に植えるようになってきました。
- 本山
- はい。カリフォルニアが先行して始めましたが、チリでも衛星からの赤外線画像などを使って、どの土地にどの品種がふさわしいかの研究を行いました。今、チリでカベルネ・ソーヴィニヨンの適地と考えられているのは、アンデスの麓に位置する標高600メートルくらいの斜面です。日中の気温は高く、夜間の気温が低いので、ブドウは完熟しますし、きれいな酸が残ります。
イタリアは今、各地で地品種が見直されていますよね。カベルネ・ソーヴィニヨンはどうなっていますか?
- 本間
- イタリアの場合はたしかに地品種への回帰が明確です。1968年にトスカーナの海沿いにある温暖な産地のボルゲリで「サッシカイア」が成功して、「オルネッライア」をはじめとするカベルネ・ソーヴィニヨン主体の「スーパータスカン」と呼ばれるワインがたくさん出てきました。ところが現在、トスカーナでは地球温暖化が深刻な問題になっています。ヴェルメンティーノやトレッビアーノ以外の白品種の栽培が難しくなっていますし、有名な「スーパータスカン」でも収穫が1週間近く早まっています。さらにアルコール度数も1〜1.5度高くなっていますね。
そんなにですか!
- 本間
- 象徴的なことに、ボルゲリの近くにラ・カリフォルニアという町があるんですよ。
- 一同
- へぇ〜。
- 本間
- ボルゲリは、フィレンツェあたりのトスカーナの人たちからすれば、カリフォルニアのように暑い場所、モダンなワインの産地という認識です。あそこでカベルネ・ソーヴィニヨンのワインを造ると、カリフォルニアやチリ、アルゼンチンとキャラクターが似てしまって産地特性がなかなか出にくいと考えられています。そうしたことからボルゲリは、カベルネ・フランやメルローに活路を見出しているのが現状です。日照量が強く温暖なので、フランスのカベルネ・フランやメルローとは違ったキャラクターのワインができます。
つまり、いまやイタリアのカベルネ・ソーヴィニヨンといったらトスカーナではない、と?
- 本間
- はい。私が注目しているのは北の産地のカベルネ・ソーヴィニヨンです。寒冷地帯のトレンティーノ・アルト・アディジェ州が典型的ですが、ドロミテ渓谷からの冷たい山おろしがあり、夏の日中は40℃まで上がりますが、日が暮れると15℃まで下がります。寒暖の差が大きいことで、イタリアの他の産地にないカベルネ・ソーヴィニヨンができています。
カリフォルニアは暑い、といわれてしまいましたが、武村さん、どうでしょう?
- 武村
- 先ほど「ボルドーは瓶詰め直後から飲みやすいスタイルに変化している」と大岩さんがおっしゃってましたが、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンはその真逆を行ってます。我々がいう「第3の波」が来ている最中なんですね。
サードウェーブ・ワイン!
- 武村
- 第1の波を禁酒法が終わってからロバート・パーカーが出てくるまでとすれば、第2の波は、パーカーの評価が世界を席巻し、ワイナリーがこぞって果実味やアルコール度数が高く、酸が低くてタンニンのソフトな、パーカー好みのワインを造っていた時代です。そして第3の波として、第1の波のようなボルドーに追いつき追い越せといった時代のスタイルを、現代的な技術、アプローチで実現しようと取り組むワイナリーがあります。より酸がしっかりとしてフレッシュさが感じられ、長期熟成にも耐え得るカベルネ・ソーヴィニヨンですね。
具体的にどんなワインを目指しているのでしょう?
- 武村
- たとえば80年代前半のロバート・モンダヴィ・カベルネ・ソーヴィニヨン・リザーブ。びん詰直後はそのよさはわかりづらいけれど、10年以上の熟成を経て実力が現れ、テロワールが感じられる。ニューヨークやロス、サンフランシスコでは、そうしたスタイルのワインしかお店に置かないソムリエも少なくありません。もちろん、ガッツリとしたステーキハウスなどでは、従来からある果実味たっぷりのカベルネ・ソーヴィニヨンが売れていますが、こだわりのある方々はこうしたエレガントなスタイルのワインを注文するようになってきています。
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