日本人であることを忘れる
「コンクールに挑戦するソムリエはどんな毎日を送っているのか?」。
2015年11月に香港で行われるアジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールと、その先にある世界大会への準備を進める石田にこんな素朴な疑問をぶつけると、「一番大切なのは環境を整えること」という答が返ってきた。
「自分の生活のできる限りをコンクールの準備に当てることができる環境を整える。戦略としては、いかに国際的な感覚を持つか、ということです」
いうまでもなく世界大会では国際基準で審査される。したがって、それと同じ国際基準の感覚に慣れ親しむことが挑戦への第一歩だというのだ。
「これは“グローバル”といった単純な言葉で表されるものではありません。説明しにくいのですが、日本人であることをいったん忘れるような感覚、といいますか」。
日本人であることをいったん忘れる⁉︎
「1996年に全日本最優秀ソムリエコンクールに優勝して世界大会の切符を手にしたとき、若かったこともあって私はそれなりに自信をもっていました。しかし結果は惨敗。世界中から集まったベテランソムリエたちの前で萎縮してしまい、満足に会話もできなかったのです」。
当時の石田もそれなりの実力はもっていたのだが、まだ「日本人ソムリエとしては優秀」というレベルに留まっていた。そんな反省から2000年の世界大会に再挑戦したときには積極的に出場者の輪の中に入り、交流に務めた。自ら日本人という枠を取り払うことで評価も上がり、3位入賞につながった、と石田は考えていた。
「ソムリエとして働くだけなら、日本人の感覚で日本人のお客さまに合ったワインをすすめていればいいのです。しかし、世界を相手に戦うのであれば、世界のソムリエとしての視点をもつことが絶対に必要なのです」。
自分を世界の中に置く。そういった環境づくりをすることでテイスティングや勉強の仕方も変わってくる。
「国際大会ではコメントもフランス語か英語ですることに決まっていますから、日頃からワインの勉強をするのもできるだけこれらの言語でしたほうがいい。そういう部分も含めて、戦える環境を整えることが大切なのです」。