今回、柳忠之さんは、和食とワインのペアリングでも定評のある「乃木坂しん」支配人・ソムリエの飛田康秀さんとともに、イタリア サルデーニャ地方のワイン「パーラ」をテイスティング。合わせる料理の提案までお願いしてそのポテンシャルを俯瞰してみた。
パーラが物語るサルディーニャ
和食と合わせることで見える個性
45日で完売したヴェルメンティーノの造り手
地中海に浮かぶ2番目に大きな島、サルデーニャ。他民族の侵略や支配を受けながらも独自の文化を貫き、島独自の個性豊かなワインを生み出す。
最も栽培されている赤用品種はこの地でカンノナウと呼ばれるガルナッチャ、白は地中海沿岸で栽培されているヴェルメンティーノ。
モニカやヌラグスなど、サルデーニャでしかほとんど見かけることのないブドウ品種も数多い。
日差しは強いが、マエストラーレと呼ばれる強い北風のおかげで、ワインはフレッシュ感が保たれるのだ。
島南部のカリアリに創業し、昨年70周年を迎えた「パーラ」。創業からしばらくは他の生産者同様、北イタリアの醸造所にワインをバルクで売っていたが、1995年に現当主のマリオ・パーラが父サルヴァトーレから事業を引き継いで以降、瓶詰めワインの生産に注力。家族経営の比較的小さなワイナリーにもかかわらず、醸造設備の近代化を図り、高品質なワインをつねに造り続けている。
ラインナップは白がヴェルメンティーノやヌラグス、赤はカンノナウやモニカなど、島土着の品種を単独で醸造したワインが主流だが、ヴェルメンティーノとマルヴァジーア・サルダに国際品種のシャルドネをブレンドした「エンテマーリ」を1999年に造るなど、海外市場を標的にしたワインにも取り組む。
一方、パーラを一躍有名にしたのが、2005年初ヴィンテージの「ステッラート」だ。
樹齢60年のヴェルメンティーノから造られるこのワインは、初ヴィンテージがリリース後、わずか45日で完売した記録を持つ。15年には「ガンベロ・ロッソ」誌で最高の評価となるトレ・ビッキエーリを獲得。これはサルデーニャ南部のヴェルメンティーノとして初の快挙であった。
カリアリの土壌は砂と粘土が混ざる石灰質土壌。豊かな日照と適度な水分ストレスがワインを凝縮させる。そして、目と鼻の先に地中海。潮風がワインに塩味を伴うミネラル感を与え、赤も白もフレッシュさを損なわない。新鮮な海の幸にぴったりのワインは、当然、和食との相性も抜群に良いはずだ。
魚に赤がいける理由
柳 今回は南イタリアのワインを日本料理に合わせるという、少々挑戦的な試みでしたが。
飛田 いえ、ところが実際に飲んでみたら、豊かさはあっても鈍重ではなく、塩味の感じられるワインだったので、ペアリングはすんなり決まりました。
柳 フグは淡白な食材のイメージで、この中ではリッチな「エンテマーリ」にどうかなと思いましたが、見事なマッチング。さすがですね。
飛田 皆さん、テッサの薄切りが頭にあるので、フグは淡白な風味と思いがちですが、じつはすごく旨味の豊かな魚なんです。それで少し厚切りにして、噛み締めるたび味が染み出るようにしてみました。

白ワインの「エンテマーリ」におすすめの一品はフグ。厚めに切ったフグを塩揉みしたものに、酢橘で和えたアオリイカ、炭火で焼いたフグ白子を添える。「味わい的に白身の魚がまず浮かびました」と飛田さん。噛み締めた時の旨味でワインとのカウンターバランスを取るべく、フグをチョイス。そこに甘くネットリしたテクスチャーのアオリイカを添え、フグ白子はソース代わりという。白子にちょびっと垂らした醤油が生臭みをマスキングする。
柳 一方、サバに赤ですか!
飛田 はい、赤ワインはたいていの生臭みをマスキングしてくれます。ちょっとこれを試してみてください。
飛田さんが赤ワインの「サライ」に合わせたのは、なんと青魚の代表、サバ! 口中での咀嚼時間を長くするため、サバを炭火でしっかり焼き、梅肉を合わせたポン酢で味付け。その下に素揚げにした笹掻きゴボウとエビイモが敷いてある。最後に細切りした大葉をトッピング。ワインがもつほのかな獣っぽさが、炭火焼きのサバと混じり合うことで、まるで肉を味わうような感覚に。トッピングの大葉の爽やかな風味もワインと調和。「梅肉の代わりにトマトを使ってもいけますよ」と飛田さん。
柳 えっ、カラスミ?
飛田 サルデーニャといえば、ボッタルガ(カラスミ)が名物ですよね。
柳 あっ!「カンノナウ」と合わせてみましたが、まったく生臭くありません。
飛田 そうでしょ? 青背の魚にも、断然白より赤だと思います。ちょっと血っぽい「サライ」なら、血合いから来る生臭みも感じないはずですよ。
柳 これは家でも試さなきゃ!
試飲を終えて
飛田泰秀
サルデーニャは気候的に暑い土地で、ワインはアルコールが高く、どっしりしたタイプばかりと思っていましたが、それはこちらの勝手な思い込みでした。海に近いこともあり、赤も白も塩味を帯びた風味を持ち、潮風の影響をすごく感じましたね。ペアリングの幅を大きく広げてくれるワインばかりで、和食との親和性がとても高い。カンノナウやサライは、恐れることなく、青背の魚と積極的に合わせてみることをおすすめします。
コストパフォーマンスの高さもびっくりで、とくに1,800 円のヌラグスや1,900 円のモニカは家飲み用にぴったりじゃないですか? こういうワインがどこでも気軽に手に取れるようになるといいですね。
柳忠之
飛田さんの感想と重複しますが、暑い産地にもかかわらず、フレッシュさをつねに保つ味わいに驚かされました。と
くにヴェルメンティーノの上級キュヴェ「ステッラート」はその洗練された品格ある風味に脱帽。通常、上下のヒエラルキーがあると上の方がどっしりしてることが多いのに、これは真逆で下がどっしり、上が軽やか。しかし、軽やかといってもインテンシティ(集中度)は上回ってるんですよね。
いずれも海風と石灰質土壌というこの土地のテロワールを存分に表現したワインばかり。我が家では1,800 円で買えるヌラグスを常備したいと思います。
ワインのお問い合わせは
フードライナー 078-858-2043 https://www.foodliner.co.jp/

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