スワン・バレーの高級品種 シュナン・ブラン
というわけで、前置きは、上述の通り。今回のオンラインマスタークラスは2種類のワインが事前に参加者の手元に到着していて、これをテイスティングしながら、というものだった。
まず、一本目が、スワン・バレーのシュナン・ブラン。
スワン・バレーは、西オーストラリア州の首都、パースからほど近いワイン産地。1829年にブドウ樹が植えられたという、オーストラリアでは2番目に古いワインの産地だ。そのブドウ樹は南アフリカからもたらされた。
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気候は温暖で、地中海性気候。シュナン・ブランのほか、グルナッシュ、シラーなどが育てられている。1937年、「フォートン・ワイナリー」が「フォートン・ワイン・バーガンディー」というワインをリリースして産地として有名になり、そして、そのワインの中核をなしていたシュナン・ブランが注目された。フレッシュかつ、長期熟成にも耐えるポテンシャルをもっていたからだ。1960年代末はジョン・コソビッチという人物が、この地のシュナン・ブランでプレミアムワインを生み出す。以来、スワン・バレーのシュナン・ブランは、プレミアムワインを生み出す品種としての地位を獲得する。
スワン・バレーのシュナン・ブランが評価される理由は、スワン・バレーの気候にある。地中海性気候で太陽の恵みをうける、この地のシュナン・ブランは、酸が印象的な涼しい気候のそれとはことなり、「南国的なフルーツ、トロピカルフルーツのようなアロマ、甘いフルーツのような口当たりが出る」と岩田渉ソムリエはいう。
今回、テイスティングに登場したのは、日本にはまだ未導入ながら、オーストラリアのワインのご意見番、ジェームズ・ハリディ氏の名を冠する Halliday Wine Companionで5つ星を獲得するなど、すでに高く評価されているワイナリー、リバー・バンク・エステイトのシュナン・ブラン。その名を「Rebellious」という。2019年ヴィンテージ。
このワイナリーは2017年に、リンボ家が購入したという若いワイナリーなのだけれど、ブドウ樹は1988年に植えられているそうで、リンボ家が購入して以来、収穫量を抑え、灌漑は最低限、化学肥料等も最小限、と人為的な介入を控えた、高品質なワイン造りを行っている。
そのシュナン・ブランを、岩田渉ソムリエは、液体の透明感、麦わらのようなかがやきを見た後、グラスに鼻をちかづけ、「若々しい第一印象。香りは、フレッシュで溌剌としている。そして、心地よい還元的な香りがそのフレッシュさを引き立てている」と評する。「フルーツでいえば、青リンゴや洋梨、ライムの皮のようなゼスティな感じ。そこに火打ち石やマッチのような香りがある。」
味わいにうつると、「11.7%とという低いアルコール度数が印象的。心地よい、ミネラル感を主体としたスタイルはオーストラリア、ハンターバレーのハンターセミヨンにも、似たスタイル。トロピカルフルーツのようなアロマは強くなく、フレッシュ感が際立つ。これは、フォートンの「バーガンディー」にも通じる、この地のスタイル。心地よいキビキビした活力あるファーストアタック。口の中が潤ってくるような伸びやかな酸味に刺激されて、スマートなストラクチャーを感じ、味わいにシュナン・ブラン特有のカリンやリンゴのみつのような甘いフレーバーが中盤から余韻にかけてあらわれます。この、果実味が現れる中盤のキャラクターが、もっとストレートな印象を与えるハンターセミヨンとの差」と評する。
これを受けて、ワインメーカーのディグビー・レリン氏は
「リバー・バンク・エステイトでは、シュナン・ブランは酸の質感を出すためにすこし早めに摘んでいます。スワン・バレーはシュナン・ブランがナンバー1の人気品種で、私も気候、土壌からいって、フランスや南アフリカより、スワン・バレーこそが、世界一のシュナン・ブランの産地だとおもっています。すぐに飲めばフレッシュだし、長期の熟成にも耐え、熟成するとまた、個性的です。5年から20年は熟成でき、リースリングのような熟成のポテンシャルがあるとおもっています。」
と語った。
「低いアルコール度数としっかりとした酸味で、アプローチャブルなワインです。合わせる料理はあまり問わない。フードフレンドリーで、地元ではクレイフィッシュ(ザリガニ)、オイスターなどと合わせます。日本なら、ホタテ、車海老の天ぷらにお塩とレモンで、合わせるのはどうでしょう。シュナン・ブランはフランスのロワールでは豚肉と合わせますが、豚肉のリエットとパンに、このシュナン・ブランを冷やして合わせるのも、素晴らしいペアリングだとおもいます。それからエスニック。東南アジアの香辛料やハーブ、スパイスも合うと思います。パパイヤのサラダや生春巻きにスイートチリソースなど。」
と岩田氏。筆者も実際、試飲後に残ったワインを持ち帰り、アルコール度数の低さ、クリーンな酸味、そして、そこはかとない旨味が本当にフードフレンドリーだと感じた。日本でこのワインが手に入るようになるのが待たれる一本だ。
マーガレット・リバーのカベルネ・ソーヴィニヨン
続いては赤ワイン。マーガレット・リバーからカベルネ・ソーヴィニヨンが登場。造っているのは実は筆者、噂でその名を耳にしていて、興味津々だったワイナリー「ブラインド・コーナー」。
こちらはGRN株式会社が輸入しているので、日本でも手に入る。
GRN株式会社のブラインド・コーナー紹介ページ http://grncorp.co.jp/winery/australia/blindcorner.html
ベン&ナオミ・グルード夫妻が、2005年に4ヘクタールの畑を買って始めたという、ブティックワイナリーで、その4年後にファーストワインをリリース。現在は20ヘクタールにまで畑は拡大しているとのことだけれど、オーガニックかバイオダイナミック農法。天然酵母のみ、加減酸なし、酸化防止剤不使用。ブドウは足で踏んでつぶしたり、バスケットプレスといわれる、樽の蓋で押しつぶすシャンパーニュ地方の伝統的なプレス方法を使っていたりと、いわゆるオールドワールドでも今どきはあまり見かけない、古典的なテクニックを使っている。筆者がその名を耳にして、記憶にのこっていた理由は、そのガンコ親父のようなワイン造りのスタイルと、体験者が、みな、そのワインを絶賛すること。
「ブラインド・コーナーという名前には、実際に最初に買った畑が、道から見えないブラインド・コーナーにあったということと、わたしたちのようなワインのスタイルは、当時、マーガレット・リバーでも見かけないものだったから。死角から急に出てきたような驚きをワインで感じてもらう、という意味があります」と、ワインメーカーのベン・グルード氏は言うのだった。
とはいえ、これが、いまやマーガレット・リバーのカベルネ・ソーヴィニヨンとしてはひとつの理想的かつ典型的なスタイルでもあるとおもう。カベルネ・ソーヴィニヨンというと、濃厚なスタイルのワインが頭に浮かびがちだけれど、ここのカベルネ・ソーヴィニヨンはちがう。岩田ソムリエは
「マーガレット・リバーと他のカベルネ・ソーヴィニヨン産地との違いは、冬にたくさん雨が降って、夏や秋には降らないという気候条件。そして、3方を海に囲まれたマーガレット・リバーに吹く、海からの涼風。そのおかげで、マーガレット・リバーのカベルネ・ソーヴィニヨンは、ゆっくりと成熟し、パワフルなスタイルではなく、洗練された酸があり、緊張感をもったワインになるのです。フォーカスされた、集中力の高さがマーガレット・リバーの特徴。そして、地中海のハーブのような、セイボリー(savory)さがあります」という。
これを受けて、ベン・グールド氏は
「マーガレット・リバーはオーストラリアの南西にある細長いワイン産地です。50年ほどの歴史しかない産地ですが、オーストラリア一の、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネの産地です。ブドウの成熟期がながく、ドライな環境でブドウが育ちます。優れた産地であることは、ヴァス・フィリックス、モスウッド、ケープ メンテル、ルーウィン・エステイトといった、世界に知られたワイナリーによっても証明されています。」
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岩田ソムリエは、このブラインド・コーナーの2018年ヴィンテージのカベルネをテイスティングして
「外観は完熟した色合い。濃いダークチェリーレッド。香りは、すでに十分にひらいていて、かなり複雑です。第一印象がまさにセイボリー。フルーツだけでなく、ハーブやスパイスの香りがあります。フルーツは完熟したブラックチェリーやプラム、リキュールドカシス。これに、タイムやローズマリーの印象が溶け込んでいます。樽の香りを感じないのも、印象的です。カベルネ・ソーヴィニヨンという品種の個性が存分にあらわれている香りです。味わいはやはりマーガレット・リバーの代表的な、ピンとはりつめた、緊張感のある酸があります。温暖化が進む今日において、こういった酸味があり、これだけしっかりブドウが熟しているのに、12.5%というアルコール度数の低さにも驚きます。ボリュームがないわけではありません。中盤には、フルーティーさ、ハーブ、スパイス、腐葉土のような香り、タバコなどが感じられます。」
実際に、このブラインド・コーナーを訪れた岩田氏によれば、このワインでは、ブドウのうちの10%を陰干ししているのだという。イタリアでいえば、リパッソだ。
フードペアリングについては
「肉と合わせるのがオススメだけれど、ボルドーみたいに仔羊のローストもピッタリでしょう。イタリアのテクニックもはいっているから、クリーミーなポレンタを合わせてもいいでしょうね。日本であれば、ぜひ、試してもらいたいのは、ウナギです。蒲焼きに甘辛いタレに山椒を加えてください。」
ナチュラルなワイン造りで、ここまで完成されたものを造るのは容易ではない。皆が絶賛するわけだ。この優しいカベルネ・ソーヴィニヨンは、綱渡りのように絶妙なバランスを常に取り続けて、造られているはずだ。小規模なワイナリーで、職人的な造り手が、深い愛情と、高い技術で丁寧に仕上げたワイン。ヘヴィーではなく、繊細な、現代的なテイスト。こういうワインに出会えるから、西オーストラリアは面白い!