ロゼが全部、甘いと思っている人、結構います
高橋 私、ロゼは大好きでして、普段から飲んでいます。天気がいいのに外へ出られず、家にこもらなきゃいけないとき、ベランダで飲むロゼなんて最高ですよね。気分が晴れやかになります。
紫貴 ロゼって、飲んでる人が幸せそうに見えるワインなんです。実際、ベランダでのロゼ飲みは楽しそう。
高橋 カジュアルなロゼなら、ワイングラスでなくコップで飲んでもサマになるのがまたいいんですよ。
宮下 全般的にロゼはカジュアルで、気負って飲むタイプは少ないですよね。いわば、日常に寄り添ってくれるワイン。数人でロゼを飲むと自然と会話が弾む、というメリットも。
宮下愛さん
「The Winery Tokyo 麻布十番店」店長。WSET ディプロマLEVEL4。港区という土地柄、またNYにあるワインショップの2号店だけあり外人客も多く、英語やスペイン語も駆使して日々接客。
「飲む機会が増えるとファンも増えるのがロゼ。甘口でも合う料理はありますし、決めつけることなくいろいろ挑戦して」
紫貴 そういえば私がフランスに行ったとき、おじいちゃんとおばあちゃんが氷を入れたロゼを飲みつつ2〜3時間会話し続ける姿を目にし
たんです。「肩ひじ張ってなくて素敵だなぁ」と感じましたね。
瀬川 そうそう、ロゼは気負わない分、飲み方にも自由が効くと思うんです。甘めなロゼはカクテル感覚で氷を入れて飲むとか、ね。
高橋 ときにはクラッシュアイスを入れて、ライムをあしらって。そうなってくると、ベランダもいいんですけど、夏にプールサイドで飲みたくもなる(笑)。
瀬川 ただ、世間では「ロゼはすべて甘い」と誤解されがちじゃありません? そのおかげで、ロゼ全体が敬遠されている気もしています。
高橋 たしかに。ワインスクールの生徒さんたちと触れ合っていると、初めはロゼに対する固定観念にとらわれている人が多いです。
瀬川 もちろん甘いロゼも魅力的。ただ、料理に合う辛口ロゼの存在を、皆さんにもっとお伝えしていきたい。
瀬川あずささん
食レコ代表取締役、ワイン講師。J.S.A. 認定ワインエキスパート。ワイン以外にも食、日本酒、テキーラと専門分野は多岐に渡る。
「有名な高級ワインの造り手でも、ロゼなら案外お手頃価格で入手できることが多々あります。どのロゼを選ぼうか迷ったときには、造り手から入っていくのもひとつの手ですよ」
宮下 甘口・辛口だけでなく、白ワインのように飲めるものから、樽熟成させて赤ワインと間違えてしまいそうなタイプまで、いろいろなロゼがあるんですものね。
ロゼスパークリングから試しましょう
瀬川 ひとつ、ロゼのなかですでに人気が高いのはシャンパーニュのロゼ。すぐに皆さん「わぁ」と盛り上がってくれる。
高橋 ロゼ・シャンパーニュは高額ですし、特別な瞬間にいただくもの。シチュエーションを選ばず毎日おうちで楽しめる、お手頃価格のロゼ・スパークリングにもぜひ注目してほしいです。
紫貴 なら、今回ご紹介するロゼ6本のうち、スパークリングから検証しましょう。まずはアメリカの「アンドレ ロゼスパークリング」。
宮下 中甘口ながら、さわやかな酸味もあるので、食事とも合わせられる。普段カクテルを飲んでいる人は、こういったタイプからワインに親しんでいけそうです。
紫貴 早朝2回に分けてブドウを丁寧に収穫しているんですって。甘味と酸のバランスが巧みで、とても上手な造り手であることが伺えます。
高橋 同じく信頼できる造り手によるワインが「コノスル スパークリングワイン ロゼ」。味わいは、ワインを飲み慣れた人も納得する本格派で、値段に対するバリューの高さは圧倒的です。
紫貴あきさん
ワイン講師。J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス、A.S.I.認定国際ソムリエほか認定資格多数。第10回J.S.A. ワインアドバイザー全国選手権大会優勝。
「ロゼは色のバリエーションが豊かで、視覚的に美しいワイン。と同時に、とてもお買い得なものからテロワールを感じるシリアスなものまで、味わいの幅も広いんです」
紫貴 高級品種のピノ・ノワールを使いながらこの価格はスゴイ。
瀬川 家で唐揚げや餃子を出すとき、高額なロゼ・シャンパーニュを開けると申し訳ない気持ちになっちゃうんですけど……アンドレやコノスルの価格帯なら、臆することなくすんなり馴染ませられます。どちらも、シュワッとする泡の刺激とかすかなタンニンのおかげで、家庭料理と合わせやすいんですよね。
カリフォルニアの老舗、E&Jガロが「日々楽しめるスパークリング」をテーマに展開するブランド。使用品種はバーガー、ジンファンデル、グルナッシュ、モスカート。
宮下 キャンディに似たやさしい癒しの甘さに爽やかさが加わり、全体にかわいい印象。
紫貴 ボイスンベリー、ブルーベリー、バラの花、スイートスパイスなどが香る。酸味がやわらかく、アフターには苦みが。
瀬川 使用品種のなかに、バーガーという名のブドウがある。ダジャレになっちゃうけど、この品種を使ったワインはハンバーガーに合う(笑)。アフタヌーンティでは、マダムたちがお茶の代わりにこのロゼを楽しんでも。
生産国/地域:アメリカ/カリフォルニア
参考価格:1,300円
輸入元:国分
オーガニック栽培に力を入れ、チリのワイン業界をけん引するコノスル。このワインはシャルマ方式を採用、スキンコンタクトののち低温で一次発酵。ピノ・ノワール100%。
高橋 入手しやすく品質は常に安定しているという安心感は、コノスルならでは。ドライで上質なピノ・ノワールの繊細な風味が、この価格で気軽に飲める点もすばらしい。
紫貴 淡い桜色で、泡立ちはこまやか。フランボワーズや野いちごなど果実味が豊かで、ストレートに伸びる酸が中盤から引き締めてくれる。アフターにミネラル感あり。緯度が高く夏でも30℃を超えないビオ・ビオを産地として選んだのは、さすが目利きのコノスル。
生産国/地域:チリ/ビオ・ビオ・ヴァレー
参考価格:1,350円
輸入元:スマイル
これぞ定番、マテウスのロゼ
宮下 微発泡の「マテウス ロゼ」はいかがですか? 日本でロゼの世界観を確立したといっても過言ではないアイテムです。ワインの教科書を見ると、ほかのロゼに関する説明は「ロワールのロゼ」「プロヴァンスのロゼ」など地名でくくられるのですが、マテウスだけは「マテウスのロゼ」と商品名がズバリ記載されてましたよ。
高橋 日本で長年愛されてきた、ロングセラー商品ですからね。
高橋佳子さん
ワインコンサルタント、ワイン講師、通訳。ワインサービス、輸入、卸に携わった経験があり、海外のワイン産地訪問も頻繁に行う。WSET® Level 4 Diploma
「ロゼをひとくち飲むと、そのワインに適したシーンが誰でもパッと思い浮かびやすい。イメージが広がるという特性は、ワインを身近に感じるためのいい入口になるはずです」
宮下 前の2本と比べると香りも味わいもさらに甘めです。ただ、昔はもっと甘くありませんでした?
瀬川 造りの面でマイナーチェンジを繰り返しているらしいので、近年は甘味をおさえているのでは。
高橋 ボトルのかたちも独特で、初見で皆さん「なに!?」と驚きます。
宮下 ワインを売る側としては、インパクトのあるボトル外観にお客様が興味を持ってくださると、そこが会話の糸口になる。助かりますね。
高橋 以前より、ラベルはずいぶんオシャレになりました。今後さらに身近なロゼとなるでしょう。オンライン飲み会映えにも期待できます。
瀬川 女子ウケしそう。
紫貴 イラクの大統領だったサダム・フセインにもウケてたようです(笑)。政権崩壊時、フセイン逃亡後に彼のウォークイン・セラーへ突入した人々が見たのは、棚にズラリと並ぶマテウスだったとか。
1950年代から世界中で大流行したマテウス・ロゼ。エリザベス女王が愛飲していることでも知られる。使用品種はバーガー、ティンタ・バロッカ、トゥリガ・フランセスほか。
瀬川 赤い果実、ピンクペッパーが香り、フローラルな要素も加わってとても華やか。甘味だけでなく旨味、滋味があり、厚みを感じる。牛しぐれ煮、肉じゃがなどみりんを使った和食に◎。
高橋 ふくよかな甘さと微発泡が心地よい。生産国のポルトガルは、海の幸が豊富で米を食べる。日本とは長い歴史の繋がりがあり、食文化にも共通項がある。そんな背景のストーリーをきっかけとして、マテウス・ロゼに親しみを感じてもらうのも一興。
生産国/地域:ポルトガル
参考価格:950円
輸入元:サントリーワインインターナショナル
エモい男の甘口ロゼ
高橋 男性ウケの点で、次のワイン「ロッシュ・リニエール ロゼ・ダンジュ」はどうでしょう。世の中、自分が甘党だとは公言したくない男性が多いみたいで、甘めのロゼ・ダンジュは避けられてしまうのでは。
紫貴 確かに酸も穏やかで甘めなのですが、スパイス感やタンニンが加わるので、しっかりした味の料理と合わせられます。また、ワインだけでも楽しめるロゼです。
宮下 きっと、海老チリなど甘辛い料理が合いますよ。
紫貴 アルコール度数が11%と低めですが、ピリ辛の味をワインと合わせるとアルコール感って強まるものなんです。だからロゼ・ダンジュとエスニックや中華は相性がいい。
瀬川 普段は甘いワインを飲まない男性も、「今日は中華料理だからロゼ・ダンジュ」と、ペアリングを考えて選んでくれないかしら。
高橋 ロゼ・ダンジュは今も昔も変わらないクラシックなスタイル。このほっこりとした甘さは、まさに家飲み向きですね。
瀬川 決して水着姿で「イェーイ」と飲むロゼではない、と(笑)。ロワールから城やバラ園を連想するから、バラの咲く庭先で、お酒に強くない家族と一緒に飲むとか
宮下 癒し系ロゼですよ。ラベルも古き良きデザインで。
高橋 今の若い子たちは、レトロなものを「エモい」と褒めるらしい。となると、ロゼ・ダンジュはけっこうエモいワインですよね
宮下 エモいワイン……その表現は新鮮です(笑)。
ロゼ・ダンジュほかロワールに代々伝わる伝統ワイン生産にこだわりを見せるロッシュ・リニエール。使用品種はグロロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン。
高橋 ローズピンクの色調がロマンティック。ほんのりとスパイスを伴うベリーの風味が持続し、甘味を引き立ててくれる。甘口ながら飽きずに飲み続けられる。
宮下 キイチゴのような赤い果実の風味に、ハーブの清涼感が加わる。ロワールのロゼは派手なマーケティングやプロモーションをする訳でもなく、良い意味でクラシックで地味なまま。けれど、ほかにはない個性をちゃんと持っていて、楽しみ方の提案次第では如何様にも魅力を引き出せるはず。
生産国/地域:フランス/ロワール
参考価格:1,400円
輸入元:三菱食品
ホームパーティーでキマるロゼ
瀬川 いっぽう、海辺でサングラスしながら乾杯というシーンが似合うのは「ミラヴァル ロゼ」。
宮下 産地であるプロヴァンスの青空の下で飲みたくなりました。このように色の淡いロゼが今、ニューヨークのトレンドなんです。ミラヴァルは味わいがまさに王道、さらにボトルデザインも格好よくて、ロゼならではのファッショナブルさを堪能できるワインです。
高橋 ラグジュアリーなイメージもついていますし。
紫貴 価格は比較的お高めに感じますが、ブドウのセレクション、醸造、貯蔵にいたるまですべてがプレミアム。それを踏まえますと、格別高いわけではないんです。
瀬川 ホームパーティの手土産として、ミラヴァルを持参したいです。
宮下 そうそう。訪問先でどんな料理が出るか分からないとき、汎用性の高いミラヴァルを選んでおけば間違いありません。
高橋 ただ、ワイン通ばかりが集まるホームパーティのときは「テ・カイランカ TKピノ・ノワール ロゼ」も悪くないんですよ。ワインとしてかなりシリアスな造りで、パワーと存在感があります。
瀬川 ニュージーランドのピノ・ノワールでロゼを飲んだことのある人はまだまだ少ないから、きっと話題になって盛り上がりますよ。
紫貴 5%だけ木樽熟成をしていて、複雑さと深みがあります。
宮下 ふくよかさ、シャープさ、香ばしさを兼ね備えているんですよね。通が納得するだけでなく、初めて辛口ロゼを飲む人も迎え入れてくれるバランスの良い味わいなので、入門編としても使えます。
俳優のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが所有するワイナリー。ロゼは直接圧搾とセニエを品種により使い分けてブレンド。使用品種はサンソー、グルナッシュなど。
瀬川 ピンク・グレープフルーツ、スパイス、ハーブのアロマあり。南仏らしい解放感もスタイルに反映され、果実味がありつつドライな余韻が続くオトナのロゼ。食卓をパッと華やかにしてくれるパワーがある。
宮下 白ワインに近いほどスッキリと整った上品な味わいながら、余韻には奥行きがある。ピリッとくる苦みもGOOD。たしかにロゼとしてはいい価格だけれど、価格以上の味わいが得られるた
め、店頭ではお客様に勧めやすい。
生産国/地域 フランス/コート・ド・プロヴァンス
参考価格 3,400円
輸入元 ジェロボーム
1984年創立以来、急成長したワイナリー。乾燥した気候で海風が強く、夏でも夜は涼しいマーティンボローにて、この地に適したピノ・ノワールをメインにワインを手掛ける。
紫貴 フランボワーズ、クランベリー、バラの花束が香り、わずかに木樽熟成由来のシナモン、ナツメグも感じられる。アタックはドライで、キリリとしたフレッシュな酸が果実
味をリフトアップ。ほろ苦さがありつつ、よく調和していてキレイな造り。
高橋 夏の夕焼けを思わせる美しいサーモン色。上品なレッドチェリーの風味があり、ピノ・ノワールのシリアスさがアロマからうかがえる。バランスのよい酸味があり、後を引くおいしさ。
生産国/地域 ニュージーランド/マーティンボロー
参考価格 2,700円
輸入元 モトックス
瀬川 今日は6種類のロゼを飲み比べてみて、あらためてそれぞれの個性が際立っていることが分かりました。どんな料理と合わせようか考える作業も楽しかったです。
紫貴 料理のジャンルを問わず、自由なペアリングを楽しめるところもロゼの魅力ですよ。
宮下 「ワインは料理と合わせてこそ」との意識を、とくにロゼの造り手が強く持ち続けた結果かも。また甘口ワインでも甘みが抑えられていたり、ラベルが変わったり、時代の
変化が興味深かったです。
高橋 逆に、時代を経てもスタイルを変えないロゼについては、「古臭い」と過小評価せず、その良さをきちんと伝えていきたいものですね。