このドメーヌは、ボワセ家が1964年から買い増していった自社畑の中でも最上のクリマを寄せ集めて出来たもの。総面積は44ヘクタール、37のアペラシオンに分かれ、ドメーヌの看板となるクロ・ド・ヴージョのほか、ミュジニーやシュヴァリエ・モンラッシェ、それに単独所有のクロ・ブラン・ド・ヴージョなど、珠玉の特級畑、一級畑をもつ。
「収穫には140人の摘み取り人が必要になります」と、総支配人を務めるシルヴィー・ポワイヨさん。このドメーヌも設立当初からビオディナミ農法に取り組んでいる。ビオディナミの暦では、収穫は実の日が最適とされているので、少人数で毎日摘み取るわけにはいかないのだ。
ほかにもこだわりがいっぱいだ。赤ワインの醸造には木製の発酵桶が使われるが、その大きさは各アペラシオンの面積に合わせてあり、クロ・ド・ヴージョは毎年24番の桶で醸造と決まっている。果帽を潰すピジャージュは、今でも桶の上に人がまたがり、足で踏み潰す。それも必ず女性(!)がするという。
「女性の方が体重が軽いので抽出が優しく、無駄なタンニンの出ることがありません」。
醸造施設の外に出ると、目に飛び込んできたのは整然と積まれた木材の束。何かといえば、熟成に使用する小樽のオーク材である。ブルゴーニュではかつて、シトーの森のオークから樽を作り、ワインをそれで寝かせていた。そのひそみに倣いドメーヌでは、シトーの森からオークを切り出し、それをドメーヌで2年半から3年かけて乾燥。製樽会社に送って樽に仕上げてもらうのだ。
またプレパラシオン、すなわちビオディナミに用いる調合材のハーブも自家製。裏庭に小さなハーブ園が設えられ、ミント、ラベンダー、ヴァレリアンなどが育てられていた。
このように、微に入り細を穿つ仕事をもって造られるワインが素晴らしいのは当然。セラーの中で18年ヴィンテージのいくつかをテイスティングさせてもらったが、もっともベーシックな「ピノ・ノワール・テール・ド・ファミーユ」ですら、完璧にバランスのとれた豊かな風味をもち、並の造り手の村名クラスなど形無しであろう。
ましてや特級畑をやであり、「クロ・ド・ヴージョ」の余韻の長さには圧倒される。
しかも除梗をしない全房醸造にもかかわらず、厳しいニュアンスが一切ないことにも驚かされた。これはやはり、乙女の足踏みが功を奏しているのでなかろうか。
どのワインもフレーバーが豊かでレイヤーが感じられ、豊かな果実味とともにフレッシュさも備わっている。大ドメーヌの底力に平伏した。