構築的でエネルギッシュ
ヴランケン・ポメリーは、東京 日本橋のCook Japan Projectにて、東京のフランス料理の名店「L’Osier(ロオジエ)」のエグゼクティブシェフを2005年から6年間つとめたブルーノ・メナール氏を迎えてのディナーにて、「ポメリー ミレジメ グラン・クリュ」の2008年ヴィンテージをお披露目した。
ポメリーのシャンパーニュで、プレステージキュヴェの座に位置しているのは、1979年ヴィンテージをもって登場したヴィンテージシャンパーニュ、「キュヴェ・ルイーズ」。キュヴェ・ルイーズは現行でも2004年ヴィンテージと長期熟成のシャンパーニュで、アヴィズとクラマンのシャルドネ、アイのピノ・ノワールのブレンド。キュヴェ・ルイーズ専用の区画で栽培されたブドウから、わずかに得られる最良の果汁を醸造する、という厳選に厳選を重ねたスタイルを採用している。
一方、1836年からの歴史を持つポメリーにとって、長らくラインナップのトップに君臨していたのが「ミレジメ グラン・クリュ」。ミレジメなので、こちらもヴィンテージシャンパーニュで、いずれもグラン・クリュのピノ・ノワール50%、シャルドネ50%で造る。ポメリーのなかでは、骨格があり、食事向けのシャンパーニュとして位置づけられている。
ブドウは、アヴィズ、クラマン、オジェ、シュイィ、シルリー、ヴェルズネ、そしてブジーかアンボネのものを使う。品種は、名前を挙げた順で、アヴィスからヴェルズネまでの畑のシャルドネ、シルリー、ベルズネ、そしてブジーあるいはアンボネの畑のピノ・ノワール。シルリー、ヴェルズネについては、ピノ・ノワールもシャルドネも使う可能性がある。ブドウの出来が良かった年のみ、これらの畑のなかから、良質な6か7のクリュのブドウを選び、造られるのが、ミレジメ グラン・クリュだ。
しかも、ピノ・ノワールのような骨格、滑らかさ、複雑さをシャルドネから得る、という発想で、一般的に、シャルドネが得意とされる畑で育ったピノ・ノワールも使うというようなこともしているという。
今回は、お披露目された2008年ヴィンテージとともに、その前のヴィンテージの2006年ヴィンテージも味わうことができた。
2008年はポメリーにとっては気候に恵まれ、ブドウの房が大きく、最良の健康状態で収穫できたという説明を受けて、グラスに鼻を近づけると、香りは、甘みがあって、熟成と酵母に由来するとおもわれる香ばしさがある。アカシアのハチミツのような香り、とポメリーではいうけれど、それはぴったりな表現だ。
ところが口にいれると、香りの印象とはちょっと味わいは異なって、とてもシャープだった。酸味や苦味がしっかりと感じられるし、細やかな泡は十分な量がある。ひとつまえのミレジメ グラン・クリュとなる2006年ヴィンテージと比べると、若々しく感じる。
ポメリーは、史上初めて、ブリュットを造ったメゾンだとされていて、そのシャンパーニュは全体的に、ピュアやエレガンスが基調をなすから、2006年ヴィンテージでも、甘さや重心の低さよりも、酸味や苦味の印象が勝り、熟したブドウに由来するであろう甘味や熟成感は、そこに厚みをもたせるニュアンスといった雰囲気だ。とはいえ、2006年ヴィンテージは、複雑で、骨格があって、よくまとまって熟成している。これとの比較で2008年ヴィンテージについていうと、まだ若いという印象はあって、もちろん、今後、2006年のような熟成を迎えるのかもしれない。けれど、2008年といえば、すでに収穫からは10年以上の時が経っているし、瓶内熟成期間も4年以上なので、十分な熟成はすでにされている、とおもってもいいとおもう。むしろ、2008年ヴィンテージの若々しさは、新旧という意味で若い、新世代のような、新しさがあるのではないだろうか。王道を行くキュヴェ・ルイーズ、そして先輩の2006年に対して、2008年は、より現代的な表現をしているのではないか、と感じた。
なにせポメリーはアーティスティックなブランドだ。全長18km、深さ30mにもおよぶ、ランスの巨大なカーヴには、毎年、テーマを設けて、大きな芸術作品が飾られているという。日本でも、ニュイ・ポメリーというアートのイベントを開催している。
また、ソムリエコンクールを開催して、若いソムリエを支援したり、美食、レストラン向けに「アパナージュ ブラン・ド・ブラン」というシャンパーニュを用意していたり、エネルギッシュに文化に、あるいは変化に投資を続けている。
2008年ヴィンテージのミレジメ グラン・クリュは、ポメリーである、というアイデンティティは保ちながら、こんなポメリーらしさの表現もできるのだ、というマニフェストみたいな印象を筆者は受けたのだった。