キリッとしたスタイル
フランスのパリでワインを扱う商人の家に生まれたものの、家業は継がずにアメリカへ渡り、コーヒー輸入業で財を成したニコラ・フィアット。
縁あってシャンパーニュ地方の畑を入手した彼は、プライベート用に少量のシャンパーニュを造っては、知人友人にプレゼントして満足していた。
それが今では、フランス随一の人気メゾンへと昇りつめている。
ほかのメゾンとは毛色の異なる背景を持ったニコラ・フィアットの創立は、1976年。50年以上の歴史を経ていながら、ニコラ・フィアットは依然としてシャンパーニュの世界で“若いメゾン”と認識されている。
さて、その若さは何に由来するのだろう?
ニコラ・フィアットのシェフ・ド・カーヴ、ギョーム・ロフィアンに明かしてもらおう。
「うちのメゾン、スタッフの離職率が異様に低いんですよ。会社自体が若いから風通しがよくて、快適な労働環境だから」
意外にも、ギョームは社風の話からスタート した。
「各部門から若いスタッフだけを集めた会が結成されていましてね。ある日、彼らのなかで『シャンパーニュを入れる段ボールケースを積み木のように組み合わせて家を作り、PR用の期間限定ストアにしては』 という企画が持ち上がったのです。そして、2カ月後にはもう実現していました。上下関係がきっちりと構築されているクラシックな老舗メゾンでは不可能な進行スピードです」
たとえば、「クリエイティブ醸造委員会」というメゾン内のスタートアップ企業的な位置づけの組織があって、醸造に関わるスタッフだけでアイデアを出し合い、新企画に取り組むこともあるという。
メゾンから発せられる“若さ”は、決裁に至るまでのスピード感と、チャレンジ精神であったのか。
上役たちの承認を順々に得ていかなければコトが進まない、古い体質の企業とはだいぶ異なる、イマドキの社風である。
そういえば、肝心のシャンパーニュ本体も若々しい味わいだ。
「そうですね、リフレッシュを促すような、キリッとしたスタイルがニコラ・フィアットらしさです」とギョーム。ようは酸の存在感が引き立つ造りなのか?
「うーん、酸という単語を使うと、『酸っぱい』とアグレッシブに捉えられてしまいがちなんですよね。代わりに、いつも私は『バイブレーション』という単語を使ってお伝えしています。活き活きとしてフレッシュなニュアンスが伝わりやすいでしょ。スタンダードのNVにも、プレステージの『パルム・ドール』にも、共通してバイブレーションは息づいています。これこそがニコラ・ フィアットのDNAなんです」
ギョームたちが目指すのは、使い勝手がよく、親しみの持てるシャンパーニュ。
高品質で高級、けれどエリートだけが理解するニッチな世界観ではなく、多くの人に受け入れられるニコラ・フィアットへ。
そのアクセシビリティを可能にするのが、キリッとしたバイブレーションなのだ。
ニコラ・フィアット パルム・ドール ブリュット 2008 (同左)
あえてセニエ法をチョイスし、ピノ・ノワールの力強さと個性を表現。柑橘とスパイスの香りが、軽やかでバランスのとれたテイストとともに長く続く。「鳩や鴨などの肉料理に。ティエリー・マルクスはイチジクのデザートを提案してくれて、これもまたよく合いました。食後酒にしても満足できます」(ギョーム)。