遊び心のある醸造家によって新スタイルが誕生し続けている!
日本の20倍の広さの国土に、多様な人びとが住むオーストラリア大陸。そこでつくられている多様なワイン事情をオーストラリア在住のKisa Motoさんが紹介する。
■様々な品種と個性
ユニークな国オーストラリア。総人口の4分の1以上が、オーストラリア以外で生まれている。世界で稀に見る多民族移民国家なのだ。人種が違えば、話す言葉も違う様々な「オーストラリア人」で成り立っている。
第二次世界大戦後、平和な土地を求めてやってきたブドウ栽培の知識を持つヨーロッパ系移民を受け入れたことがこの国のワイン産業の急激な成長のきっかけとなった。酒精強化ワインが中心であったオーストラリアワイン産業は、彼らの新しい技術やスタイルを受け入れることにより、変化を続けてきた。
ヨーロッパに比べるとワイン造りの歴史は、まだまだ浅い。「伝統を重んじる」のがヨーロッパワインであれば「変化を恐れない」その思い切りの良さがこの国のワイン造りなのではないか。
日本からオーストラリアへ移住した私も、オーストラリア人の国民性に感銘を受けた。異国の文化や考え方を、前向きに受け入れ、共存することを考えるのだ。
オーストラリアでは様々なブドウ品種が育てられている。まるでこの移民国家を象徴するようだ。世界中から移り住んだ人々と共に、様々なブドウ品種が導入され、そのブドウは新しい土地で個性を発揮しながら立派に育っている。
数年前から、ヴィクトリア州や西オーストラリア州でグレラ、フィアーノ、ネッビオーロなどイタリア系品種に出会う機会が増えた。土壌や栽培環境が合っているのだろうか。とても美味しいのだ。詳しく聞くと、ワイナリーのオーナーは、イタリア系移民であることが多い。
広い国土を持つオーストラリアでは、それぞれの州のワイン産地によってもちろん気候も土壌も大きく異なる。造られるワインには様々なタイルがあり、ひとくくりに「オーストラリアワイン」で片付けるのは
難しい。
イタリアのネッビオーロとオーストラリアヴィクトリア州ヒースコートのネッビオーロを比べてみた。ざっくり言うと、本場のものほどの強いタンニンは感じられないものの、バランスのとれたタンニンと酸を持ち合わせ、幅広い香りのブーケに魅了された。長期熟成させなくても、今すぐ楽しめるお手軽さが何よりもの魅力である。
■シラーズのスパークリング
オーストラリアの最近のトレンドは、常識に縛られないワイン造りにある。バラエティに富み、飲み手を飽きさせない。
たとえば、西オーストラリア州グレートサザンにあるワイナリーでは、ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールのブレンドをマグナムボトルで造っている。飲んでみると、どうして今までこのセパージュが主流にならなかったのか、驚くほどスーッと喉に馴染む。丸い口当たりが心地よく、チャーミングな香りと線の細いボディが次の一口をそそる。
オーストラリアでは今、遊び心のある醸造家によって、新しいスタイルのワインが誕生し続けている。
どうして、挑戦し続けるのか。そこには、オーストラリアの国民性が隠れているように思う。
私の次の楽しみは、南オーストラリア州のスパークリングワインだ。オーストラリアワインの代名詞と言っても過言ではない、南オーストラリア州のシラーズ。「濃い!!」シラーズが飲みたい方には、持ってこいの産地である。
「そこに美味しいシラーズがあったから」
若手ワイン醸造家の思い付きで誕生したスパークリングシラーズは、今やオーストラリア国内では不動の人気を誇る。昨年、スパークリングシラーズの造り手から「スパークリングカベルネ・ソーヴィニヨンがもうすぐ出来るよ。スパークリングリースリングにも挑戦しているんだ」と便りが届いた。造り手の好奇心が飲み手にも伝わる。実際に飲んでみるのが待ち遠しい。