KWVに触れずして語るなかれ!
アフリカ大陸の南端、南アフリカ。象やライオンが走り回るサファリ・パーク的な国? いえいえ、それは南アフリカの一面に過ぎない。
ケープタウンはクラシックな建造物にヨーロッパ植民地の名残をとどめ、砂浜の美しいボルダーズ・ビーチではペンギンたちがヨタヨタ歩く。そして、各地の渓谷や丘陵に広がるブドウ畑もまた、じつに南ア
フリカらしい風景だ。
しかし、アフリカだから暑いのか、大陸南端だから寒いのか、遠方に住む日本人からしてみると南アフリカの気候がピンとこない。
そこで目安になるのは、緯度。ワイナリーが多く集まる南緯34度を地球儀の上でなぞってみると、オーストラリアなら南オーストラリア州やニューサウスウェールズ州、アルゼンチンはメンドーサ、チリはサンチアゴ近郊のマイポ、と各国を代表する重要なワイン産地にリンクする。うまいワインができないはずはない。
輸出量を年々伸ばす南アフリカワインだが、高品質の理由は恵まれた気候ばかりではない。
南アフリカワイン全体のレベル底上げに100年以上尽力してきたKWV(南アフリカブドウ栽培協同組合)に触れずして、南アフリカワインを語るべからず。
もとは国営だったのが1997年に民営化され、近年はいい意味でより色気のあるワインも増えてきた注目の生産団体だ。このKWVのバックアップを受けたアブラハム・アイザック・ぺロード教授が自分の庭先で1925年に誕生させたのが、ピノタージュ。
香り高いピノ・ノワールと、生命力が強く厚みある味わいのエルミタージュ(サンソー)が掛け合わさった、南アフリカオリジナルの交配品種である。1980年代から急速に評価が高まり、1990年代の南アメリカ経済制裁解除をきっかけとし、世界中で名声を轟かせる結果に。
つまり、南アフリカらしいワインを味わいたいなら、南アフリカワインの歴史を体現する「KWV」の「ピノタージュ」こそが、まさにど真ん中!
KWVはコスパが高いと気づいたら
とはいえ、1本飲んだだけでピノタージュのすべてを把握できた気分になってもらっては困る。ここはひとつ、同じ造り手の同じ品種で飲み比べをオススメしたい。
用意するのは、正統派の「クラシック・コレクション ピノタージュ」、同じピノタージュながらコーヒー的な香ばしさが際立つ「カフェ・カルチャー」。2本ともフルボディながらスタイルは明確に違う。肉料理を合わせるにしても、前者は香ばしい甘ダレの焼鳥、後者はさらに油脂分を含んだ豚肉のリエットやメンチカツなどがピッタリくる。
「ピノタージュは、スタイルが違うと似合うシーンもガラッと変わるもんだなぁ」「KWVって、クラシック路線とモダン路線の両方アリなのか」などなど興味が深まったところで、次は国際品種のシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンにトライ。諸外国のそれと比較してみれば、KWVの技術力の高さを見せつけられる結果に唸ってしまうはず。
「あれ、……もしかして、KWVはとんでもなくコスパが高いんじゃ?」と気づいたら、さあ、いよいよプレミアムワインのお出ましだ。
“この母なる大地も、ペロード教授のような人間も、ワイン造りでの良き師(mentor)である”との哲学に則り、リリースされるのが「メントーズ」シリーズ。フレンチオーク100%使用のボルドーブレンド「メントーズ オーケストラ」、ローヌ系品種の「メントーズ カンヴァス」は、どちらも調理に手間をかけたご馳走が似合う。
生産者たちとの連携に敬意を表し、各産地から選りすぐりのブドウを使うのは「カセドラル・セラー シャルドネ」。諸外国の銘酒を味わってきたツワモノたちにはぜひともこのランクまで到達してもらい、南アフリカワインをコンプリートしてほしい。