ぜひ飲みたい! ココのオレンジワイン 6
フラテリパラディソ
最初にセンセーショナルな体験を!
一昨年、表参道ヒルズにオープンしたイタリアンダイニング「フラテリパラディソ」。イタリア料理でありながら、発祥がオーストラリアのシドニー。すでに世界的名声を確立したブランドであるうえに、海外初出店ということから大きな話題を呼んだ。
今やフードトレンドを牽引する地とされてはいるが、本国で「フラテリパラディソ」が誕生した2001年当時のシドニーは、通し営業をしている店舗さえもほとんどない飲食店不毛の地であったという。
そこで立ち上がったのが、エンリコとジョヴァンニのパラディソ兄弟に、ビジネスパートナー、マルコ・アンブロシーノさんの3人。
素材感を重視したイタリア料理には、地のものを合わせるべきとの考えから、まだごく限られた存在であったナチュラルワインの生産者を継続的にサポート。
こうした長きにわたる信頼関係からレアなアイテムを多数そろえていることが、今日では同店のブランド力を押し上げる要因ともなっている。
さて、WINE-WHAT!?読者のためにイチオシの銘柄を選んでくれたのはワインディレクター アシスタントを務めるミラネーゼのパオラ・マラッツィーナさん。一度語り始めたら止まらないほどの過剰なワイン愛とあらゆる国の文化に深い興味と尊敬を持つ、情熱的な人物である。
その彼女が選んだのが「ラディコン/ヤーコット 2006」だ。
ちなみにヤーコット(JAKOT)とは、使用品種であるトカイ・フリウラーノの”TOKAJ”を逆から読んだもの。諸々の事情により原産地呼称を認められず、品種名をラベルに表記できなかった生産者の反骨精神とユーモアが感じられる1本である。あまりにも圧倒的な個性ゆえ、もはやオレンジワインというカテゴリーではなく、ラディコン以外の何物でもない。
なぜこれがオススメなのかを問うと
「知識や経験値なんて関係なく、最初にセンセーショナルな体験をすること! 私のオレンジワインの旅は、この造り手から始まりました」
ボッタルガの塩気と磯系の旨みが合う
そして、オレンジワインという表現方法についてこう話す。
「きっと果皮には記憶があって、ワインのストーリーを知っている。ブドウが育った土地の風や太陽、出合った虫たち……。それを液体に映し出すことって、実はシンプルな考え。世界的に巨匠として尊敬を集めたスタンコ・ラディコンが“自分は農夫なんだ”っていうことから、生涯一歩も揺らがなかったように」
「考えるな、感じろ!」の精神である。
対する料理は、ボッタルガ プレッツェル」。
燻製オイルを加えたクリームにたっぷりのボッタルガ。中央のオリーブオイルと混ぜ、プレッツェルにつけていただく一品だ。ボッタルガの塩気と磯系の旨みが合うのは当然。むしろ、イタリア料理らしからぬこちらが、同店のシグネチャーであるという点に注目したい。
パラディソ兄弟のルーツはイタリアにある。つまり背景にあるのは移民文化である。
商業的視点からのカルチャーミックス的発想ではなく、ルーツと育った国との文化が当たり前に融合した、人間的なテロワール。
生産者との付き合い方も、泥臭いほど熱い信頼関係でしかない。ワインは農業だから、トレンドなんてどうでもいい。土地の力によるブドウの有り余るエネルギーを込めた1本に触れれば、たちまち、新たな世界が目の前に広がる。
全然オシャレじゃないけど、めちゃくちゃカッコイイこと、請け合い!