ぜひ飲みたい! ココのオレンジワイン 5
赤坂あじる亭
オレンジワインありきの料理
豊富な品ぞろえのワインと、フレンチベースの料理を供するカジュアルなビストロ。今となってはは珍しくなくなってきた、肩ひじ張らずに訪れられる「ワイン居酒屋」的業態だが、同店がオープンしたのは十数年も前。しっかり食事から2軒目利用、もちろん宴会だって大歓迎ですよ、の「腰低い系」ワインスポットとしては先駆者的な存在だ。
店としては特に“オレンジワイン推し”ではないらしいが、ピンポイントでの指名オーダーが多く入るのだという。その理由は、2代ほど前の店長の個人的趣味から、複数のオレンジワインを大盤振る舞いのグラスで提供しており、ここで開眼したお客がリピーターとなっているからなのだ。
本特集で取材の依頼をしたところ、ソムリエ資格を持つシェフの田中義明さんがまずは料理を考案し、店長でソムリエの小巻秀人さんがそれに合う1本を選んでくれた。シェフとしては珍しいタイプであるが「ワインありきで料理を構成する」という田中さんは、カツオを主役食材に据えた。
鉄分の風味と脂が乗りきった時期では、醸しているとはいえ白に分類されるワインは合わせにくいため、4月〜5月のタイミングがちょうどいいのだそう。
「主役を選んだ後は、余韻について考えました。オレンジワインなら、柑橘のニュアンスとスパイス感がほしい。だから、いよかんをプラスし、レフォール(西洋わさび)とクリアな辛みのある新ショウガのガリを添えています」
さらに、オリーブオイル・ソムリエでもあるシェフは、グリーンアップルやバナナを思わせる香りを持つイタリア、シチリア州のオイルを使用。薬味として新玉ねぎとセリ、レモンバームなどを添え、和だか洋だか、シンプルなようで要素の多い一皿を構築している。
「なんだか面白そう!」と思ったら
シェフからのややこしいバトンを受けた小巻さん。自身が無類のカリフォルニア好きであることから、同地のナチュラル・ワイン生産者として名高い「ブロック・セラーズ」のアイテムを推薦。
一見すると白ワインと区別がつかないほど淡い色合いと柔らかな果実味。だが、飲み進めていくと、味わいの底にほのかなタンニンを感じる。
「カツオという素材だけに焦点を当てれば、もっとスキンコンタクト期間が長くタンニン量の多いものが合う。でも、あまりタンニンが強いタイプは飲みにくく感じる方も多いと思うので、柑橘やオイル、ハーブ使いなどシェフのアレンジ手法側に寄せて、個性をぶつけるより寄り添うようにと選びました」
さて、早速カツオに薬味をのせて味わってみると、新玉ねぎの甘味やらハーブやら、噛む位置によって異なる風味が口中で混ざる。そこにこのワインを合わせてみると、熟したブドウのやや南国を思わせるニュアンスが相まって、不思議としっくり。
「軽やかなようだけれど、醸し由来の個性はしっかり備わっているので、流すだけでなく料理の風味を受け止めることができる。ここがおもしろいところですよね」
ところでこの店、呼び寄せるのか引き合うのか、シェフにしても歴代店長にしても、濃ゆいキャラの大渋滞傾向が否めない。それがカラーとなって、ワイン好きの好奇心を刺激し続けているようだ。
オレンジワインとは何たるかなどと定義するより、過剰なキャラを受け止めてくれる懐の深さ。「なんだか面白そう!」と思ったら、「赤坂 あじる亭」を訪れ、まずは1本オーダーしてみてはいかがだろうか。