ぜひ飲みたい! ココのオレンジワイン 2
アルドアック
ビンス・ヌス/シウラルタ オレンジ 2017
6,300円
スペインのナチュラル・ワイン生産者が手掛ける1本。ガルナッチャ・ブランカとヴェルメンティーノを50%ずつ使用する。柑橘系の香りとピュアな酸が特徴。
春野菜と貝のバポール 鴨と柑橘のソース(7,500円のコースからの一品)
スペイン料理と日本の旬食材
国内のスペイン料理店で経験を積んだ、シェフの酒井涼さん。2012年に独立し、代々木八幡に自身の店を構えた。注目の飲食店がひしめく穴場的エリア扱いされる立地とはいえ、同店があるのは初訪問ならスマートフォン片手でも通り過ぎてしまいそうな、いくら隠れ家的ったって隠れすぎのわかりにくい物件の2階。
そのうえ、オープン以来サービススタッフさえも置かず、すべての業務を一人でこなし、ゆえに完全予約制というスタイルを貫く。
致命的に店主に協調性がなく、スタッフが誰もついてこないのではと勘ぐってしまいそうになるが、とにかく直球。やりたいことが明確だからこその合理的判断のようだ。
カウンター8席のみの小規模な店舗でありながら、2種のコースのみ。決してバル的な雰囲気ではなく、レストランとしてお客と対峙している。コースのうちひとつは、伝統的なスペインの郷土料理、もうひとつは日本の旬食材を盛り込み、軽やかに仕上げたアレンジありの内容だ。
ワインを選ぶ上での考え方を聞くと、「どれだけ完成度が高く美味しくても、料理を必要としないワインは選びません」とのシェフらしいストレートな答。今回提案してくれたのは、スペインの生産者「ビンス・ヌス」のオレンジワイン。軽やかな柑橘の香りにほのかなタンニン、スッキリ通る酸を持つ、クリーンでピュアな味わいだ。
オレンジワインは楽しい
料理は、アレンジありのコースより、春野菜と貝を主体に柑橘、鴨のソース、アンチョビミルクを添えた一皿。野菜は、ホワイトアスパラやうど、タラの芽、蕪、うるい、プチヴェールなどを使用。
「春野菜の苦みや良い意味でのえぐみが、ワインとの共通項。はまぐりやホタテ、バイ貝が旨味要素です」
決してソムリエ的な説明はしないが、この組み合わせは双方の味わいが広がっていく展開のスピード感から余韻に伸びる長さに至るまでが、痛快なほどきれいに揃っている。さらに、ワインに一瞬だけ淡く感じる乳製品のような香りのニュアンスも見落とすことなく、アンチョビミルクを足すことでさりげなくフォローしている。
「アレンジと言っても、ゼロからの発想はしない。郷土料理にルーツがあり、それをベースに組み立てていくことが前提です。たとえば、スペインって山と海の素材を一皿盛り込む料理が多い。そこで、野菜と貝だけでなく鴨の出汁も添えているんです」
出汁には、独特の苦みが料理に使いやすく、最近のお気に入りだという河内晩橘の皮も加えた。
純粋に旨いものを提供したいという酒井シェフだからこそのシンプルで明快なアプローチ。きらびやかに装飾するのではなく、料理を立てるためにピュアなワインをセレクトしているのだ。
「オレンジワインって、香りに色々なニュアンスが混じっているから楽しいですよ。味わいの底にほのかな苦みがあるので、春野菜とアサリをフライパンで蒸してみたり、自宅でだって簡単に試せます」と酒井さん。
<旨いものを提供することにのみ、ひたすら情熱を注いでいる人物が言うのだから、間違いはない。手っ取り早く料理をより美味しくしたいなら、オレンジワインこそが最短であり、正義なのである。