ぜひ飲みたい! ココのオレンジワイン 3
乃木坂しん
オレンジワインと伊勢海老の黄身焼き
銀座の名店で働いた後、ともに渡仏し、「奥田パリ」立ち上げに携わった料理人の石田伸二さんとソムリエの飛田泰秀さん。世界に向けた日本料理の強い発信力とワインペアリングの可能性を国内外の視点から知り、抜群のチームワークを誇る二人が2016年に立ち上げたのが「乃木坂 しん」だ。「和でここまでピンポイントのマリアージュ提案をしてくれる店は貴重!」との声が多く、オープン3年目にしてすでに飲食業界やワイン関係者からも一目置かれる存在となっている。
まずは、飛田さんに自身の店でオレンジワインを扱う意義を聞いてみた。
「うちは会席料理のスタイル。一皿ごとにワインを合わせていくと、一度のお食事で7種類前後を提供することになります。日本料理ゆえ、セレクトが白ワイン寄りになるのですが、それでは単調過ぎてしまう。流れに変化を付けたり、お客様の味覚に刺激をもたらすアクセントとして、頼りがいのある存在です」
そして用意してくれたのが、「伊勢海老の黄身焼き」。卵黄と伊勢海老の味噌を混ぜたものを身にかけながら、炭火で香ばしく焼き上げた一皿だ。
「海老って淡泊なようでかなり旨みがある。さらに味噌の部分も使っているので、相手が一本通った主張を持つオレンジワインならうまくバランスが取れます。炭火で焼くことで、香りの深みが加わっている点もポイントですね」と石田さん。
合わせたのは、「ラ・マリオーザ/ウニ 2017」。力強く立ち上る、熟したマンダリンの華やかながら華美ではない上品な香り。果実のふっくらとした旨みが口中いっぱいに広がり、きめの細かいタンニンとピュアな味がアフターに長く伸びる。しっかりと芯に強さを持ちながら、心地よくグラスを重ねられる柔らかさと温かみが印象的。
中華量とか唐揚げにだって合う
日本料理店が本特集内で1、2を争う個性派アイテム推し。まったくもってワインの話となると、飛田さんにさじ加減という概念は一切ないらしい。フルスイングのセレクトである。緻密な肉質の伊勢海老を心地よく噛み進めるごとに増す甘味に加わる黄身の風味。まろやかさとコクを共通項に、互いの個性が相まって時系列での展開がある組み合わせである。
お見事ではあるが、どちらもそれなりに良いお値段で、気軽とも言い難いハイクラス系マリアージュ提案。もうちょっとカジュアルに、ビギナーがオレンジワインに注目すると、何が面白くなるかを聞いてみた(ここはぜひ、バントでお願いします!)。
「白ブドウだけど、スキンコンタクトを経ているから色合いが濃い。って言ったって、オレンジってけっこう曖昧なカテゴリーですよね、色の話でいいのかって感じで(笑)。だから、理詰めのアプローチじゃなくて、曖昧なまま取り入れたらいいんじゃないですか。もっともタンニンの収斂性があるので、油脂のボリュームや旨味のある料理が前提ですが、中華料理とか唐揚げにだって合う。白だか赤だか迷ったとき、守備範囲が抜群に広い食中酒として選択肢に入れておけば、ペアリング論から一気に解放されますよ」
そもそも味わい、香りともにオレンジワインが持つ要素が多いんだから、どれかしらが料理の風味を拾ってくれるだろう、これはラクでいいや! くらいのユルい感覚で、ぜひお試しあれ。