興味深いのはスティルワイン
1762年から続くブドウ栽培家一家にうまれたジャン・マリ・ヴェスクさんは、父の代までつづいていた、協同組合にブドウを売る栽培農家としてのスタイルを捨て、1995年にルクセンブルクワインルートのちょうど中間あたりに自らのドメーヌの拠点となる建物を建てた、独立系栽培醸造家だ。
現在はヴェスク家のブドウ畑15haに加えて、5haの契約農家のブドウを醸造し、9万から12万本の年間生産量を誇るという。
生産量の40%がクレマンなのだけれど、興味深いのはスティルワインだ。
まず、「これはクラシカルなルクセンブルクのスタイル」といってサーブしてくれたのは2017年ヴィンテージのピノ・ブラン。
確かにおっしゃる通りで、まろやかな酸味にキャンディのような可愛らしい甘い香りのワイン。やはり生産者にとっても、これがひとつの典型的なルクセンブルクのワインのスタイルであることを、最後に訪れたワイナリーにて確認できた。
そして、それはつまり、ジャン・マリさんは、これとは違うルクセンブルクワインのスタイルを見つけているということの予告でもあった。
2年の樽熟成を経た2015年のビノ・ブランについで2013年のシャルドネからが本領発揮で、やわらかな酸味に完熟したブドウの甘みと苦み、ミネラルやヨードを感じさせる非常に複雑な、そして上質な白ワインをサーブしてくれた。
「ルクセンブルクでシャルドネは酸が強くなりすぎて難しい品種とされていました。ピノ・ブランはその代わりのような側面があります。ところが、温暖化の影響で、いまは、むしろ他産地よりシャルドネらしさを表現できるようになっているとおもっているのです」
ルクセンブルクのワインを使って欲しい
そしてカベルネ・ブラン。ドイツやスイスにある珍しいカベルネファミリーだ。こちらはちょっと辛いくらいのスパイシーさ。
さらに、ピノタンという珍しい品種の赤ワインも、現在まだ、樽熟成中の2017年ヴィンテージを試飲させてくれた。深いルビー色で、しっかりとしたタンニンは、ルクセンブルクで唯一経験した、重厚な赤ワインだった。ブルゴーニュの力強いピノ・ノワールを思わせる。
「現在のルクセンブルクは田舎の小国ではなく、国際的で、素晴らしいフランス料理やイタリア料理のレストランがあります。ところがそこで食事に合わせるのはフランスやイタリアの輸入ワインです。ルクセンブルクではこんなワインも造れるのに。私は、ルクセンブルクのワインを使って欲しい」
冷涼な産地ならではの爽やかな透明感と味の強い料理にも負けない骨格。セプドールのワインは、豊かな美食の国、ルクセンブルクの未来のワインを予告する存在となっていくかもしれない。