ワインを擬人化したくなる
「ベルナ」は、ルクセンブルクワインルートの中間より少し北のアンという町に、複数軒ある独立系ワイナリーのうちの一軒で、評価の高い造り手だ。
こぢんまりとした建物の地下に樽とタンクが並び、地上階に出荷用のスペースがあり、2階では今年はじめて挑戦しているというヴァン・ド・パイユのためのピノ・ブランが藁の上で干されていた。
栽培面積は8ha。年間生産量は5万〜7万本。
その内の25%がクレマンで、赤はピノ・ノワールが2種、ロゼが3種。白はシャルドネ、ピノ・グリ、リースリング、オーセロワ、ピノ・ブラン、ゲヴェルツトラミネール、リヴァネール、エルブリングとルクセンブルク品種が勢揃いする。畑違いふくめて13種。合計20種類ものワインだ。
「ちょっと多すぎますよね。でもそれがルクセンブルクの伝統なのです。畑での仕事は簡単といえば簡単。それぞれは小さな区画で、ブドウが熟したらそれを摘んでくる。それをここで、ワインにしていくのが大変です」
とベルナの3代目、マルク・ベルナさんが言う。とはいっても、ベルナの畑は急勾配の斜面に多いので、おそらく畑仕事も楽ではないはずだ。
そのうえで、ひとつひとつワインを造り分け、さらにヴァン・ド・パイユなどという手のかかるワインまで始めるとは、奇跡のようだ。
しかし、テイスティングしてみれば、ワインはそれぞれはっきり違い、同じ畑の同じ品種でも、ヴィエイユ・ヴィーニュ(古いブドウの木)かそうでないか、収穫時期、収穫年によっても違うのだから、マルクさんの体力がもつならば、さらにもっと多くの種類を用意できそうだった。
とりわけ表情豊かなのは、ピノ・グリとリースリング。ピノ・グリであれば軽快さ、可憐な甘みは共通なるも、同じ畑でもヴィエイユ・ヴィーニュに食事と相性がよさそうな苦みがあった。大人の雰囲気である。若いヴィンテージのものには香ばしい酵母の香りをおもわせるクセがあって、これは青春している感じ。
リースリングはピノ・グリ比で大人っぽく、ヴィエイユ・ヴィーニュが、後味にさわやかな酸が残り、口にいれた際の澄んだ甘みもあって、スパイシーな食事との相性がよさそうだった。よりモダンなイメージがあるのはピノ・グリの方だから、ピノ・グリがルクセンブルクの若手に人気があり、国際的な場面でも評価が高いのは頷ける。
マルクさんの話をきいて、ワインを味わっていると、この個性豊かなベルナのスタイルは、ルクセンブルクのワイン造りの伝統の線上にあるのだと感じる。それはこの後に訪れた2軒のワイナリーの、より挑戦的なスタイルとくらべて、自然とともに一歩一歩歩むリズムで、おそらく100年後でもここにくれば、その時代をよく表したルクセンブルクらしいワインに出会えるだろう。職人気質ともいえそうだ。
最後に、筆者が個人的にぜひ味わってほしいのがピノ・ノワール。タンニンはとても優しく、青々しい酸味は心地よい旨味に通じる爽やかさ。そしてただようほのかな甘み。
この可憐なピノ・ノワールは日本人をきゅんとさせるに違いない。