エピキュリアン・ワイン
ドメーヌ ドミニク・グリュイエの原型は修道院で、歴史は1212年にまで遡る。この地域で伝統ある醸造所なのだけれど、1914年以降、放置されていて、1990年に、グリュイエ家が手に入れ、ドミニク・グリュ
イエさんが栽培醸造家として、復活させた。
ゆえに正式なドメーヌの名は「プチ・カンシー修道院のドメーヌ」と複雑で、現在は、特に修道院とのつながりもあるわけではないから、わかりやすいように、と自分の名前を表に出している。
もともと機械のエンジニアだったというドミニクさん。エピヌイユの隣のトネールの出身で、母方の祖父がコート・ドールのネゴシアンだったこともあって「テーブルには50本もワインが並んでいるような家の出身です」とのこと。特にワインを造る予定もないのに、ワイン造りの勉強もしていた。そして結局、ワインを造ることになった。造ることだけでなく、飲むのも好きなのが、言動の端々からうかがえる。立ち居振る舞いは、エレガント。なんともモテそうなおじさんだ。
現在は31haの畑をもっているけれど、5haはシャブリにある。エピヌイユの畑は18haがピノ・ノワール、1ha弱ピノ・グリ、のこりはシャルドネ。
「ワイン好きがセラーで熟成させるようなワインは、おそらくグラン・クリュのものとかでしょう。だからエピヌイユのワインは手頃な値段で、すぐ飲んで美味しいものがいいとおもっています。でも、熟成のポテンシャルがない、という意味ではないですよ」
眼鏡の向こうの瞳が、グラン・クリュにも負けないぞ、という自信の光線を放つ。薄いオレンジのラベルのワインが気軽なワイン。白のラベルは「ちょっと変わった造り方をしているワイン」と分けている。
ステンレスタンク発酵、樽熟成で、樽の香りはつけないように古樽を使うのがドミニクさんの基本的な流儀。おもしろいのは、全房発酵を取り入れるところ。特に白のラベルのものは全房発酵が基本になる。
「やらなくても美味しいワインを造れるんですが、僕にとってはなんだか、気が抜けた感じがするんです」
特に複雑なのは、1999年に娘の誕生を祝って造ったブルゴーニュ・エピヌイユの「キュヴェ・ジュリエット」と、ダノというリュー・ディのブドウで造るブルゴーニュ・
エピヌイユの「ラム・デ・ダノ(ダノの魂)」。全房、除梗したブドウ、梗、除梗したブドウ、梗、除梗したブドウと層状にタンクに入れて、発酵するという。また、SO2をボトリング時以外は無添加なため、炭酸ガスで酸化を防ぐそうだ。ブルゴーニュ・エピヌイユのキュヴェ・ジュリエットを造ったころには、かのフィリップ・パカレに指導を願っていて、現在はブドウは100%オーガニックだ。
「色々やってみるのが好きなんです。だからエピヌイユの代表格か、といわれるとちがうかもしれない。個人的に、歯ごたえがあるようなワインが好きで、ちょっと苦みがあると、よだれがでてくるみたいな、おいしい感じがしませんか? 全房発酵はそういうワインができるとおもっています。それから、酸を下げる効果もあるとおもいます。酸が強いとタンニンも強く感じ、イメージとちがってくる。僕は、気軽にたくさん飲みたくなるワインが造りたいから」
実際、酸はあまり強くなく、塩っぽいミネラルがうまみを感じさせる。香りは香ばしく、口にいれると、強い刺激がなく、後味には酸とミネラルが残って、もう一口飲みたくさせる。これは酔いそうだ。
最後にどうしても気になって試させてもらったブルゴーニュ・エピヌイユのロゼは、一方、ロゼとしてはやや力強い。コショウのようなニュアンスを感じる。
「一時期はもっと赤ワインっぽいロゼを造っていたんですが、ウケが悪かった。おもってみればロゼはああだこうだ考えて飲むものではない。ワインの専門家みたいな人ではなくて、ワインが好きな人が、ああ美味しいとおもってくれるようなワインが造りたいんだって気づいて、スタイルを変えたんです」
フィリップ・パカレさんには、樽から飲んで、自分が美味しいとおもったところで、澱引きをせよ、といわれたのがもっとも記憶に残っているというドミニクさん。自分が飲みたいワインのために、おそらく実際はかなり苦労しているはずなのに、ドミニクさんからもワインからも、苦労という言葉は縁遠く見える。
やっぱりモテそうだ。