確信 × 挑戦
この場所でブドウが生きる意味。この場所でブドウを生かす意味 。
きっといいワインがつくれる
標高840m~864m。塩尻エリアの中でも最も標高の高いエリアに美しい畑を擁する「サンサンワイナリー」。
率いるのは戸川英夫さん。1942年生まれ。ワインの道へ進むために故郷広島を離れ、山梨大学の発酵生産科を選び、その後マンズワイン工場長を務め、退職後、長野のさまざまなワイナリーで工場長などを歴任。日本のワインの変化を見つめ、この先の日本ワインの行く末を考え続けてきた。
2011年ごろ、自身で、そろそろ引退かなと思っていたタイミングで持ち上がったのが、この場所での新たな挑戦だった。
といってもすべてが整っていたわけではない。いや、整っていたものなどない。逆に、すべてがなかった。荒れ果てた耕作放棄地。ぽつんと寂しくたたずむ廃屋。ここから始めなければいけない。50年を超えるキャリアの再出発にふさわしい場ではないはずだった。
でも、戸川さんは笑顔で振り返る。
「2年間、荒地の土を全部掘り起こして、耕して、ようやくブドウを植えて……ワインを造れなかった2年は確かに辛いものでしたよ。今までの人生、ずーっと造ってきましたからね。でも、確信があったんです。きっといいワインが造れるというね」
その確信の第一歩は、実は20年前から始まっていたと言う。
「今後の温暖化なども含めて、長野では今後、標高800m~900mでいいブドウが造れるのではないかと考えていたんです。このあたりの天気・気象データが1898年から残っていて、そこからの推察もありました。この土地もいいなと思っていたんです。ですから、ここでワインが造れるという話が来たときには嬉しかった」
この土地を20年前の冬も見ていたという戸川さん。ただその時は一面の雪景色。ここでは無理かもしれないという不安もあったが、時を経て、最高のタイミングでの挑戦となった。
錬金術師じゃないんだから
これまでのキャリアで培った技術と経験、世界のワイナリーを歩いて得た知見を、この場所に惜しみなく注ぎ込んだ。作業しやすい醸造施設、考え抜かれた畑のレイアウト、そして気象データを刻々と記録する設備など、戸川さんの集大成でもあり、まだまだこれから続けていくという宣言でもあるように見えた。
「でもね、醸造家が技術だけで造れるわけじゃないんです。ブドウの良さをサポートすること。それで初めていいワインが造れる。この土地にあったワインをね。僕たちは錬金術師じゃないんだから(笑)」
ブドウのよさをサポートする。サポートしたい。だからここで育つブドウには意味がある。セクションを分けて丁寧に育つメルロー、標高の高さを生かして戸川さんが可能性を強く感じているシャルドネがあれば、塩尻で長く愛されながらもワインフリークには軽視されているコンコードとナイアガラもある。
「人間が勝手に、このブドウから造られるワインはダメだとか決めてはいけない。ここでずーっと生きて、愛されてきたのだから。ちゃんと意味があるんですよ」
キャリア50年を超えてもなお、ワインを毎年造れる喜びを感じ、そして、ここ塩尻で造れるという幸せをかみしめて。戸川さんは標高864mにサンサンと注ぐ太陽の下、塩尻らしいワインを追求していく。
生ける伝説、伝説の伝承者、老舗の意地と粋……4つのワイナリーを巡って感じられたのは、塩尻という場所だからこその、世界への挑戦と自分たちの文化を守り育む取り組み、その両面への懸命と喜びだった。
ワイナリーへ行こう。発見を求めて、そして凝り固まった常識を忘れるために。
サンサンワイナリー
長野県塩尻市柿沢日向畠709-3
tel.0263-51-8011 e-sunlife.or.jp/sunsunwinery
※ワイナリー見学については直接お問い合わせください。