INTO THE FUTURE
世界的なワイン誌『デキャンター』の「デキャンター・マン・オブ・ザ・イヤー2018」にも選ばれたエデュアルド・チャドウィック氏。長年にわたるチリワインの品質向上、ファインワインを通じての地位の確立への尽力が評価されたものだが、気品と気さくさの両面を感じる微笑みの中で、常に情熱の炎を燃やし続けるチャドウィック氏にとっては、到達点ではなくあくまでも通過点ということになるのだろう。
今回の来日の目的は2つ。
アイコンワインである「セーニャ」「ヴィニェド・チャドウィック」「ドン・マキシミアーノ」の新しい2016年ヴィンテージと、最新のプロジェクトである「ラス・ピサラス」の一般へのお披露目がひとつ。
もうひとつはカリフォルニアワインの実力を世に知らしめた「パリの審判」を主宰したスティーヴン・スパリュア氏との、ファインワインの今後を展望するマスタークラス「INTO THE FUTURE」開催だ。
ビジネスとアカデミックなエデュケーションと相反するもののようだが、共通するのは、チリのファインワインの歴史はまだ始まったばかりで、でも、その未来への歩みを止めてはいけないというメッセージ。
一般の方、というところに目を向けると、まだチリのファインワインの世界は知られているとは言い難い状況だろう。チャドウィック氏は、日本におけるチリワインの歩みをよく知っている。「チリカベ」という日本ならではの言葉をそのまま使うし、その裏側にある「チリワインは安い(けれどまあまあ美味しい)カベルネ・ソーヴィニヨン」というところでとどまってしまっているイメージと現状もよくご存知だ。
「日本でのチリワインの歴史は、バブルの時代があり、その後、フルーティで安いワインとして広まりシェア1位を獲得。今はサード・フェイズ・ビギニング。チリのテロワールをご理解いただき、ファインワインを分かち合う時が来ました」
チリのテロワールを理解する上で氏のワインは最適で最良のテキストだ。
カルメネールやマルベックなど良質で多彩なブドウを育む本拠地であるアコンカグア・ヴァレーと、「ヴィニェド・チャドウィック」が生まれる世界に誇るカベルネ・ソーヴィニヨンの楽園であるマイポ・ヴァレー、さらに新しい可能性を求めた、冷涼な海岸沿いの丘陵に開かれた「ラス・ピサラス」を生むアコンカグア・コスタでの挑戦。
「素晴らしいテロワールを生かして毎年、毎年、正しいチューニングしていく。2016年はチリのテロワールにとってはフィネスの年となりました。2015年ヴィンテージと2016年は気候に合わせて樽の使い方も変えましたし、セーニャについてはカルメネールの割合を21%から8%に大きく変更。来年にはまた変わるでしょう」
チリにファインワインがある。これを世界に示したのが2004年、チャドウィック氏がしかけた「ベルリンテイスティング」。以降日本を含めて世界の各都市で行われたが、ここでボルドー、スーパータスカンと呼ばれるイタリアの高級ワインとのブ
ラインドテイスティングにおいて各地で1位を獲得。上位には常に氏のワインがあった。ディフェンディング王者としてのプレッシャーや今後の野心を聞くと、静かに微笑んでこう答えた。
「どこかと比べて優劣を決めたいわけではないんです。ただ、チリにも素晴らしいファインワインがある。そのことを知っていただきたいだけなのです」
氏のワインを通じてチリワインの今ままでを知り、これからの扉を開いてみる。きっと、チリだけではなく世界のファインワインのこれからも見えてくるだろう。