検証7 シンコ
コハダの幼魚で、江戸前寿司、夏の風物詩的ネタ。本日登場したのは静岡県舞阪産。身が小さいため、塩ではなく塩水に漬けて酢で〆る。実は、取材時はシンコが“超”走りの時期だったために少々高価であった。素材と酢の酸味、シャリに合うワインは見つかるか?
ネタもシャリも“酢”が決め手。難関攻略◎のツボは?
富田 熟成中に死んだ産膜酵母の一部がオリとなって底に沈殿し、シュールリー状態になる。アミノ酸の旨味や還元効果が生まれるので、生臭さが出ません。ネタの香りにフロールのナッツのニュアンスも合う。残糖やグリセリンを産膜酵母が消費していくので味覚の干渉作用によって酸がより際立ち、よりドライでシャープに感じます。だから、酢で〆た青魚なら間違いない。ジュラでもシェリーでも「フロールと青魚」を知っていただくと、活用できる機会が多いと思います。
紫貴 ワインの甘味が邪魔してしまうかと思いきや、酢で締めたネタに伸びのある酸がきれいに並走し、シャリの米の甘味ともうまくバランスが取れてきます。一瞬ではなく、噛み進めるほどに調和が実感できる感じです。
シンコに合うワイン
検証8 本マグロ
寿司ネタには絶対に欠かせない、トップクラスの人気を誇る。「すしざんまい」では、世界各国の漁港から成魚を集め、沖合の生け簀で「備蓄」し、計画的に出荷することで高品質のマグロを安定した価格で提供する。「マグロ大王」と呼ばれる社長、木村清氏自慢のネタ。
これぞマリアージュ! 中トロに格上げするワインとは?
富田 これ、マグロの風味が格上げされますよね。ワインの甘味がネタの旨みをリッチにする感じ。脂の甘味がより引き立ちます。
太田 今日のネタが、赤身だけれど、けっこう脂の充実感があるからということも関係していませんか? マグロの香りがワインと合わさることでより心地よく、しかも互いの余韻が伸びる。
太田 あとは「クラレンドル(15)」です。一般的なロゼの汎用性狙いではなく、ボルドーのロゼだということが決め手。ピンクペッパーのようなスパイス感と粘性に加えて、ブレンドしたカベルネ・フランのグリーン系フレーバーが相まって、カルパッチョを味わっているよう。
本マグロに合うワイン
検証9 アワビ
コリコリとした独特の食感を持つ、高級寿司ネタの代表格で夏が美味。特に鮮度が大事なので、一定のサイズのものを生きた状態で仕入れ、オーダーが入ってからさばいて提供。歯ごたえと磯の香のほかに、握りに巻いてある海苔のヨード感もマリアージュを左右する。
なぜか合う!? 最強“貝ワイン”決定!
富田 アワビって、火入れしたマイタケのような食感と旨みがありますよね。キノコ×赤ワインというイメージでしょうか。赤身に合うと思って選んだワインなんですが(笑)。
太田 一見、マイナス同士の組み合わせなのに混ざり合うと、プラスに転じる。この組み合わせだとアワビに肝を添えみたいな風味が生まれませんか?
松木 そうなんです、肝ソースが加わったみたいになる。
紫貴 ワインにシブレットのような感じがあるのもいいですね。
松木 お寿司だけではなく、鉄板焼きのお店で楽しんでも驚きがあるマリアージュになります。
柳 次は「アシルティコ(07)」。これは、魚介には海に近い産地のワインをという「土地の密約」の典型例。
松木 アシルティコってもともとアワビやサザエみたいな香りがありますよね。
太田 そう、サザエのつぼ焼きを連想する。合わないはずはないコンビですよね。
松木 アワビは特にだけど、貝ってしっかり噛まないといけないものが多い。やっぱりアルコール感とボディの厚みが必要ですね。
柳 土地だけでなく、咀嚼回数とボディの密約までしっかり網羅した「貝ワイン」発見です。