「クリマ」という多様な概念
世界中のワイン愛好家を魅了するブルゴーニュ・ワイン。
その唯一無二の魅力は、多様性を持つ土壌や小さなエリア内での気候の違いなど、ワインの味わいを決定づけるすべての要素「クリマ」という概念に基づいている。
あまりに多様なこの概念を、知識の詰め込みだけで攻略するのは難しい。まずは自らが感じることが重要となる。同イベントでは、アイテムごとの試飲に解説をはさみつつ、季節野菜の天ぷらや鰻、アワビなど日本の食材をふんだんに使ったフィンガーフードを用意し、参加者同士が談笑するフリータイムも盛り込んだ。互いが味わったワインの印象を語り合うことで、カジュアルな雰囲気のなかに新たな気づきに出合えるという趣向だ。
複数のワインを比較することで、それぞれのキャラクターの違いをより明確に捉えることができるのも大きなポイントになっている。
さらに、ブドウ畑の小さな栽培区画という意味で使われるクリマの各名称は、愛好家を翻弄する難解なワードではなく、現地の歴史や人々の生活と密接な関係があることにも具体的に解説した。例えば、「#2 オリヴィエ・ルフレーヴ ピュリニィ・モンラッシュ・プルミエ・クリュ シャン・カネ 2015」の「シャン・カネ」は、“Canet”あるいは“Carret”という人物が所有していたことを示す名称で、帳簿が手書きで記されていた時代に、筆跡による読み間違いや発音の揺らぎが生じ、変遷があったと考えられている。
ジュヴレイ・シャンベルタン村の城に近い丘の上に位置する「レ・カズティエ(Les Cazetiers)」というブドウ畑の名称は「要塞化された場所」の意味を持つ古典ラテン語“CASTELLUM”からの派生で、ヴォーヌ・ロマネのクリマである「レ・マルコンソール(Les Malconsorts)」には、この土地をめぐって利害関係者同士が争い、訴訟が行われていたことをうかがわせる意味があるという。
クリマとは、ワイン産地としての優位性を重んじ、後世に受け継ぎながら、ともに歩み歴史を刻んできた現地の人々の日常から生まれた名称でもあるのだ。
そもそも、ワインとは世界中でもっとも農業的なお酒。その地でしか生まれない味わいに魅力がある。ただし、そこには自然を相手に代々ワイン造りに心血を注いできた先人の想いがたっぷり込められている。自然環境だけでは決して実現しえない、人間臭さが愛好家をひきつけてやまない大きな理由になっている。
ジャン=フランソワ・ジョリエット氏はこう話す。「ブルゴーニュを訪れたときは、ぜひ自転車をレンタルしてめぐってみてください。そうすれば、隣接する畑が位置する高低差や地質、日照条件など細かな違いに気づくことができるのです」
氏の言葉通り、旅するように「クリマ」を体感する本イベントは、ブルゴーニュ・ワインの多彩な魅力を改めて参加者に印象付ける貴重な機会となった。
テイスティングワイン・リスト
#1 ルイ・モロー
シャブリ・プルミエ・クリュ ヴォーリニョー 2015
#2 オリヴィエ・ルフレーヴ
ピュリニィ・モンラッシュ・プルミエ・クリュ シャン・カネ 2015
#3 ルイ・ラトゥール
ムルソー・プルミエ・クリュ シャトー・ド・ブラニィ 2016
#4 ルイ・マックス
ニュイ・サンジョルジュ・プルミエ・クリュ レ・ダモド 2015
#5 ジョセフ・ドルーアン
ボーヌ・プルミエ・クリュ グレーヴ 2015
#6 ジャン・クロード・ボワセ
シャンボール・ミュジニィ・プルミエ・クリュ レ・シャルム 2016
#7 アルベール・ビショー、ドメーヌ・デュ・クロ・フランタン
ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュ レ・マルコンソール 2016
#8 シャンピー
ジュヴレイ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ レ・カズティエ 2014