ブリュットのシャンパーニュの元祖「ポメリー」
シャンパーニュ「ポメリー」は1836年、ナルシノ・グレノという人物によって、シャンパーニュ地方のランスに設立されたシャンパーニュメゾン。1856年にルイ・アレクサンドル・ポメリーという人物がここに参加したことによって、ポメリー・エ・グレノ(ポメリーとグレノ)と名前を変え、その2年後、ルイ・アレクサンドル・ポメリーが他界してしまって、ルイの妻、ポメリー夫人が事業を引き継いで、成長した。
ポメリーで特筆すべきは、ブリュット、つまり辛口のシャンパーニュの元祖だということ。シャンパーニュはいまもアルコール発酵にあたっては糖を足すことが許されていて、ドザージュといって、瓶詰め前に糖分を添加して最終的な味を整えるのが一般的だけれど、もともとは甘いワインだったという。現在はシャンパーニュといえば甘さ控えめの、さっぱりとした辛口、つまりブリュットが基本。その源流にポメリーにあり。
ポメリーは、糖分を減らして、甘くないシャンパーニュ、「ポメリー・ブリュット・ナチュール」を1874年にはじめて造り出した。
これは単に、糖分の添加を減らせばできるというものでもなく、ブドウを甘く完熟させるために収穫を遅らせたり、瓶内熟成期間を伸ばしたり、アッサンブラージュのためのワインを増やしたりといった努力が必要だった。シャンパーニュの詳しい造り方については、弊誌のこちらの記事を、ご覧頂きたいけれど、革命的なことだったのだ。
そして、甘くないシャンパーニュは、ワインの一大消費地、英国でも人気となり、食前酒として確固たる地位を築いた。
「ポメリー・ブリュット・ナチュール」は「ブリュット・ロワイヤル」と名を変えて、今日でも、ポメリーのもっともベーシックなシャンパーニュとして、親しまれている。
ロワイヤルとミレジムのあいだに
ブリュットの元祖としての矜持ゆえか、ポメリーのシャンパーニュのアイデンティティは、フランス語(をカタカナ)で、フィネス、エレガンス、ヴィヴァシテ、日本語に訳して繊細、優雅、溌剌。そのため、ブリュット・ロワイヤルのロゼ「ブリュット・ロゼ」にしても、その色合いは消え入りそうなほどに薄い。
ポメリーの専任醸造家、サブリナ・ルセール氏によると、ロゼといっても赤ワインのような重さ、タンニンは求めていない。むしろタンニンが出ないよう、マセレーションの期間をごく短くした、どちらかというとスパイシーな赤ワインをわずかに加えて、ロゼを造っている。樽も使わない、というのだ。
そんなポメリー。意外なことにいままで、シャルドネ100%のシャンパーニュ「ブラン・ド・ブラン」を通常のラインナップのなかにもっていなかった。夏向けシャンパーニュとして発売される、季節限定の「サマータイム」、おなじく秋向けの「フォールタイム」がシャルドネ100%としてあるのみだったのだ。
7月1日から(ボックス付は8月中旬から)、希望小売価格9,500円で発売となる「ポメリー アパナージュ ブラン・ド・ブラン」は、そういったわけで、初の通常ラインナップのブラン・ド・ブラン。
シャンパーニュ地方でも、特に石灰の多い土壌のシャルドネを選び、エレガンスは、コート・デ・ブラン、複雑さは、モンターニュ・ド・ランスの畑(自社畑も含む)と、ランスの東、ノージャン・ラベスのシャルドネに求めた。リリース前にはポメリーが誇る、世界遺産の自社カーヴで42ヶ月熟成している。日本では、正式な発売よりちょっと先んじて、パレスホテル東京にてお披露目された。
パレスホテル東京のソムリエ、瀧田昌孝氏(ポメリーソムリエコンクール2017の準優勝者!)によると、「外観は輝きのある、レモンイエロー。規則性ある泡。香りはピーチや洋梨のような柔らかい香りが中心。その下にシトラスがある。グラスを回すとホワイトペッパーや土壌由来のスパイスの香り、冷涼感あるハーブ、ミネラルのニュアンスを感じる。口にすると、柔らかい酸味のアタック。酸味は余韻まで続き、中盤にはふくよかな成熟した果実を感じさせるアルコールの甘みと、キレのある酸。サーブする温度は冷やしすぎないほうがいい。そして、10年程度は熟成するだろう」とのことだ。
アパナージュとは領主の子供のうち、父親の所領を継承しない、次男や三男に与えられる所領を指すとされる。美食のシャンパーニュ、ポメリーにおいて、アペリティフに、あるいは前菜と合わせるシャンパーニュとして、確固たる地位を築いているロワイヤルは、王の、という意味だから、領主。より複雑な料理には、たとえば、プレステージシャンパーニュの「キュヴェ・ルイーズ」のような、複雑なシャンパーニュがある。アパナージュはロワイヤルの次、メインディッシュの前、そんなポジションを狙っている。
とはいえ、日本なら生魚を中核にした食事などは、これで通してしまってもいいかもしれない。