これがグレのタンク。アイのYの上に、2つの点、トレマをつけるのにならって、Gの上にもトレマがついているのがアンリ・ジロー流
ステンレスよさらば
グレ、というのは土の名前だ。
「1990年代にステンレスタンクが流行りました。もちろん、ステンレスタンクは悪いものではありません。アンリ・ジローもステンレスタンクを導入して、温度管理を徹底することにかんしては、さきがけでもありました」
ただ、セバスチャンには疑念があった。樽にある面白さが、ステンレスには感じられない。それに、はたして年間25万本程度の生産量で、細かく果汁を管理するアンリ・ジローに、大量生産向きのステンレスタンクは本当に最適解なのだろうか? そこでステンレスの代案として考えだしたのが、卵型のコンクリートのタンクだった。その形にすることで、澱とともにワインは自然に対流するという。澱との接触がワインを豊かにするだけでなく、「澱は天然の酸化防止剤」とのことで、ワインをまもる働きもあった。卵型のタンクは、アンリ・ジロー向きの名案だとおもえた。
しかし、すぐにコンクリートにも疑問をもつようになった。もっとアンリ・ジローらしい、独自性のある、面白い素材があるのではないか? そこで、アンフォラの伝統も思い起こしながら、「グレ」という土でテラコッタを造ることにした。セバスチャンはこれでできるワインを気に入った。その理由は特に語らなかったけれど、コンクリートよりもよい、とおもえた。
ちなみに、グレにもいろいろとあって、シャンパーニュのグレだと色が白っぽく、アルゴンヌのグレだと色が赤っぽく焼き上がるそうだ。色以外には差はない、という。セバスチャンのお気に入りは赤。容量は524リットル。
2016年にはステンレスタンクを完全に排除した。今後、50のグレタンクをつくる予定だという。赤といっても、それぞれに表情があるそうで「50シェイズ・オブ・グレ、なんちゃって」というジョークをフランス語で熱っぽく語る途中に挟んでいたけれど、そのジョークに気がついたのは、同席した(極めて知的な)通訳の女性だけだった。
いずれにしても、この50タンクが完成し、真価が発揮されるのは、あと数年、先の話になるだろう。つまり、アンリ・ジローは、まだよりよくなる余地を残しているのだ。
自然に、いいワインをつくるんだ
アンリ・ジローはオーガニックの認証をわざわざとることはないけれど、そのブドウ果汁は130項目にわたる分子レベルの検査で、除草剤、殺虫剤、防カビ剤に由来する成分の含有量は0。アルゴンヌの森のオークも自然のものだし、植林活動にも積極的にかかわる。
「いまつかっているオークは樹齢が250年から300年。250年後、300年後の僕の子孫もここでワインをつくれるように、いまから植樹するんだ」
ボトルのバックラベルには、OKのハンドサインのようなマークが描かれている。これは、アンリ・ジロー考案の品質保証マークだ。
現在、製作中の公式Webサイトには、Ne rein s’interdire, ne s’obliger a rien, faire du bon vin naturellement(自らに禁ずることなく、自らに強制することなく、自然に、いいワインをつくるんだ)というスローガンとともに、このOKマークについて語っている動画が掲載されている。
動画の最後にShare this Videoと出てくるので、これをシェアして、このページを終えよう。