緑のワイン
ポルトガル第2の都市ポルトで大西洋へと注ぐドゥロ河流域からミーニョ川がボーダーとなるスペイン国境まで、ポルトガル北部の大西洋岸沿岸部をミーニョ地方と呼ぶ。
イベリア半島の内陸部は乾燥した気候で、夏になると草は枯れ赤茶けた大地が灼熱の太陽にさらされる。ミーニョ地方は違う。年間降水量が1200mmと多い。たとえば、日本のワイン産地・勝沼のそれは1100mmで梅雨と秋の台風シーズンの降雨量が突出している。
一方、ミーニョ地方の雨季はブドウの収穫を終えた晩秋から春先にかけてで、ブドウの成長期の雨量は少ない。それでも夏になると野草が茂り、木々が濃い緑の影をつくる。ミーニョ地方は緑豊かな大地なのだ。
それゆえ、この地方のワインは「ヴィーニョ・ヴェルデ(緑のワイン)」と呼ばれる。
加えてヴィーニョ・ヴェルデはフレッシュさ、若々しさを楽しむワインなので、「緑」には「若さ」の意味合いもある。よく「白ワインの緑かかった色合い」からという説明がされているが、それは正しくない。ヴィーニョ・ヴェルデには赤もロゼもあるのだから。
ミーニョ地方におけるワインづくりの歴史はローマ時代に始まり、百数十年前までは赤ワインが主力だった。赤は労働者のワインとされ、農民やポルトの港湾労働者などが重労働を終え、ほっと一息つく際に飲まれた。やがて交通網が発達し、飲みごたえのある赤が他地方から入ってくるようになる。
一方、清涼感溢れる白はポルトガルのほかの地方にはないものだった。それゆえ、白の生産比率はどんどん高まってゆき、今では全体の8割強が白。ヴィーニョ・ヴェルデといえば、白ワインのことだと誤解されるほどになっている。ポルトの街中の庶民が集う食堂でテーブルにドンと出されるカラフの白はヴィーニョ・ヴェルデだ。
古くから親しまれているヴィーニョ・ヴェルデだが、今最もトレンディなワインのひとつでもある。
近年、ワインのトレンドは重厚さから軽やかさへ、カベルネやシャルドネといったインターナショナル品種からローカル品種へと移ってきた。アルコール度数が白でも13%、赤では15%を超えるものがでてきたなかで、ヴィーノ・ヴェルデは10%から高くても12%台である。ミーニョ地方の原産種を使い、キリッとさわやかな酸をもち、味わいは軽快なで、微発泡のものも多い。
まさにトレンドの先端を行くワインなのである。