ワインだけでなく食べ物と一緒に楽しめる
全世界から注目されるワインと食のフェスティバル「Rootstock Sydney」。「植物の根っこ」という本来の意味には、イベントの根底にある「サステイナブル(自然との共存)」への思いが込められている。
人気の理由はなんだろう、と右手にグラス、左手には取材ノートとペンを握りしめて参加したのだが、ワインエリアの最初のブースで長髪のお兄さんから微発泡のしゅわしゅわ、ペティアン・ナチュレルを注いでもらうと、ノートとペンはすぐにしまってしまった。このお祭りの魅力を感じるのに、メモはいらない。
5年目となる今年は、オーストラリアワインを中心に5カ国約65生産者が参加。亜硫酸ゼロか極小の「ナチュラルワイン」がずらりと並ぶ。利益を目的にしておらず、売上金はアボリジニの団体に寄付される。お祭りは、「試飲会」ではない。スーツを着こんだ営業担当者がワインを滔々と説明するのではなく、爪がワインの色素で赤く染まった造り手が直接ワインを注いでくれる。長髪に髭、流麗なタトゥーの人からアンニュイなオネエさん……日本でもすでに名高いヤウマやトム・ショブルックもいる。ワインも造り手も個性豊かだ。
ワイン以外も楽しい。別会場では、コーヒーにうるさいオーストラリア人もご満悦のメッカ・コーヒー、野生酵母で造られたビール、子豚の丸焼きなど地元の人気店がスペシャル・メニューを提供。トークセッションやスター・シェフによるランチイベントも同時開催された。
SAKEもある
Sakeブースも盛況だった。助っ人に来ていたメルボルン在住の日本人ソムリエ伊賀雅彦さんは、「業界のプロが多く、日本酒に対する興味の高まりを感じた」と話す。
日本酒ブースでは、生酒を中心に約20種類がグラス売りされていた(ボトルでの購入も可能)。イベント主催者の一人でもあるMatt Young自らセレクトした日本酒を、航空便で仕入れ温度管理まできっちり行っている。
印象的だったのは、ブースの内側も楽しそうだったこと。休憩時間にコーヒーを買いにいったり、ワインやビール片手に山盛りの牡蠣をつまんだり、お客さんと話しながらもすっかり満喫している様子。そして、いつしか造り手・飲み手・食べ手の枠を超えた一体感が、熱気となって会場に渦巻いていた。人気の理由がわかった気がした。
そうそう、お祭りには浴衣だろう、と和装で参加した筆者だが、ルーシー・マルゴーのブースで盛り上がっていたら、はずみでワインが浴衣にかかってしまった。あたふたしていると、ワインメーカーのアントンは「美味しいワインだから、いいだろう!」と笑いながら、彼の(すでにワインで汚れた)Tシャツで拭いてくれた。このゆるさ……「サステイナブル」には、寛容さが必要なのだ。ちなみにそのワインは「Out of Control(制御不能)」。忘れられない1本となった。