100ドルで買える「伝説のワイン」
キャンベラに到着してすぐ、あまりの暑さに本当に冷涼気候なのか、と訝しげに思っていたが、クロナキラのワインには、紛れもなく涼やかさがあった。それでいて妖艶だった。これは……!と思うワインに出会うと血が湧いたようになる私は、冷静に分析している仲間達を横目に「おいしい!」と日本語で連発しながら吐器に捨てるのももったいなく、もう夢中で試飲ワインを飲み干していった(そのため、メンバーは「Oishi」という日本語を完璧に覚えた)。
クロナキラは日本では知名度はそこまで高くないように思うが、オーストラリアではペンフォールズの「グランジ」、ヘンチキの「ヒル・オブ・グレイス」と並んで三大シラーズのひとつに数えられるというカルトワインだ。設立は1971年と比較的新しいが、キャンベラで商業的にワインを造りはじめた先駆けで、いまでは世界中から熱い視線を浴びている。先日も、イギリスのワイン雑誌「Decanter」誌の記事で「Legend of Wine」として取り上げられていた。看板の「シラーズ・ヴィオニエ」は100豪ドル程度と、気軽に買うには少し高いが、もう二つが日本円で10万円であることを考えれば、とんでもなく割安だろう。
ヴィンテージの差はある
垂直試飲を進めていく中で、またしても自分がオーストラリアワインに対して大きな誤解をしていたことに気づく。今となってはこうして文字にするのも恥ずかしいが、「オーストラリアは気候がいいし、ヨーロッパのワインほどヴィンテージ差はないだろう」と思っていたのだ。
たしかに1,000円以下の高コスパワインとして大成功をおさめた「イエローテイル」のように毎年一貫した味わいをつくることが使命の企業もある。ただ、どちらがいい悪いではなく、クロナキラはまったく違うジャンルのワインだ。たとえば「シラーズ・ヴィオニエ」でいえば、涼しい年だった2014年はハーブやスパイス香が強く、収穫期が暖かかった2016年はアフターに厚みが出て黒い果実が強くなったりと、ヴィンテージの違いをつよく感じた。
「コート・ロティ」スタイルのシラーズでカリスマとなったティム・カークさん
テイスティングルームにあった棚の上には、ブルゴーニュ、そして北ローヌの銘醸ワインの空ボトルがずらりと並んでいた。
現在ワインを造っているのは、創業者ジョン・カークの四男ティム・カークさん。彼はローヌ地方で修行中、コート・ロティのワインに感銘を受けてシラーズとヴィオニエのブレンドを造りはじめたというから、「ブラインドで飲んだら、コート・ロティみたい!」という感想は、きっと褒め言葉になるに違いない。それに、全世界を魅了する艶やかなシラーズをキャンベラで造っていることが、すでに際だった個性なのだと思った。